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第10話「共有」

(side nanase) もうすぐ夕方6時。 仕事の時間だ。 マンションのエントランスで、もたついていると洋服屋の店員と鉢合わせた。 仕事が早く終わり、高橋を飲みに誘いに来ていた。これからバイトだと告げると、ポケットからスマホを取り出した。 「もしもし広人、これから3人で飲みに行こう。明日は祝日だし大丈夫だろう。」 抵抗している声が電話越しに聞こえた。こちらもあまり気乗りはしなかったが、相手も手強い。 完敗した高橋を待つ間、お互い自己紹介をした。洋服屋の店員もとい店長は長谷川と名乗った。 近所にあるバーに赴き、景気付けにビールを3杯頼んだ。 「今日は2人で広人の財布を空にしてやろう。」 「冗談は止めて下さい。七瀬くんの分は持ちますが、自分の分はちゃんと支払って下さいよ。」 普段は見せない顔で笑う高橋に、長谷川との仲の良さを見せつけられた。 「広人はケチだなぁ。貝、一緒に飲もう。」 長谷川とはファッションの話題で盛り上がった。愛用しているジーンズやシルバーアクセ等、共通点も多かった。 「今度、うちの店で写真を撮らせてくれないかい。この前のドレス、本当に似合っていたよ。」 「いやいや、俺にモデルなんて無理っすよ。」 ファッションには興味はあったが、モデルみたいに目立つ事はしたくなかった。顔も名前も分からない様にすると言われたが、それでも嫌だとハッキリ断った。 「つれないなぁ。広人は変態だけど、目利きのセンスだけはあるんだよ。美しいものが大好きなんだ。貝はモデルの素質があるよ。」 黙って飲んでいた高橋から、すかさず変態と言う言葉に抗議がとんだ。 その後も、高橋ネタや世代間のズレが楽しく話しは盛り上がった。 すっかり飲みすぎてしまった。 足元が覚束ない。 長谷川は一人涼しい顔で、タクシーで帰っていった。 「今日はうちに泊まって下さい。」 高橋の家に行くと、お互いソファーで寝ると言ってもめた。高橋の家なのだから、高橋がベッドで寝れば良いものを、ここまで飲ませたのは自分の責任だと言って聞かない。 「じゃぁ、2人ともベッドでいいじゃないっすか!?」 つい勢い任せに言ってしまった後に、微妙な空気が流れた。 「七瀬くん、今日は随分要くんと親しそうでしたね。躾のなっていないメイドは、可愛げがないですよ。」 明らかにいつもは違う冷たい態度だった。 「私のものでいるうちは素直に言うことを聞いて、一人ベッドで寝てください。」

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