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第3話

 初恋と気がついた矢先に失恋した。 けれど小学生だった俺には、大した痛手にはならなかった。  新しいお隣さんが出来た翌日は、特に何も変わったこともなく昼近くまでだらだらと過ごした。  夏休みの宿題はとっくに終わっていた。遊びに行けばいいのだが、 肝心の遊び相手はみんな宿題に追われている。  昼ごはん今日はどうしようと考えながら、 冷蔵庫を覗いている時に玄関の呼び鈴が鳴った。  祖母は仕事に出ているから誰もいない、来客に応対するために玄関へと向かった。  ドアを開けると隣のおばさんが笑顔で立っていた。  「修斗君、おばあちゃんと二人暮らしなんですってね。良かったらお昼はおばさんの家で凪沙と一緒に食べない?もう、おばあちゃんの許可は頂いてあるのよ」  面倒見の良い新しいお隣さんは俺の境遇を聞いて、いたく同情したらしい。  俺は物心ついた時から祖母のイトさんと二人暮らしで、それが当たり前だった。お喋りで口うるさいイトさんのお陰で別段淋しい思いもした事もなかった。  けれど、その申し出は小学生の俺にはありがたかった。  いつものように昨日の残りの 煮物をレンジ温めて一人で食べなくていいと、思うだけで嬉しかった。  おばさんに連れられて、隣の新しい玄関の扉を開ける。  新築の家のまだ何物にも染まっていない真っさらな壁が眩しかった。  リビングに通されると、初恋と失恋の両方を一度に教えてくれた凪沙が 昨日と同じふわふわとした笑顔でソファに座っていた。  お昼ご飯できるまで、ちょっと待っててね。そう言っておばさんがキッチンへ消えていった。  凪沙が「僕の部屋で遊ぶ?」と、恥ずかしそうに笑った。  なぜか心臓がドキンと跳ねた。

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