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第4話
凪沙の部屋は南向きの大きな窓のある部屋。クリーム色の壁紙に 少しオレンジがかったカーテンがかかっていた。
そこには俺の部屋とは全く違った空気が流れていた。この部屋の暖かい柔らかさ、凪沙の笑顔と同じだと思った。
ゆらゆらと揺れるカーテンから溢れる陽の光の中で、微笑む凪沙を見て心臓の鼓動がまた速くなる。
昨日失恋したばかりの相手に俺はまた恋をした。けれど、幼い俺にはそれが恋だと気が付くはずもなく、自分の気持ちを持て余していた。
……あの日から6年間。
俺は凪沙の一番という立場を守るため必死に努力した。
夏休みいつものように凪沙の家で昼食を一緒にとり、図鑑を眺めていたら本物のカブトムシを見たことがないという。見せてやりたくて、翌朝早くに神社で捕まえたカブトムシを凪沙の家に持っていった。
虫かごを眺めながら凪沙が、きらきらとした笑顔でいった。
「修斗って凄いね、なんでも出来るんだね」
「凄いね」と言われ頭がくらくらした。また凪沙に褒められたい。凄いねと、認められたい。
都会から引っ越して来た凪沙は、勉強がとても良くできた。ピアノを習っていて、時折弾いてくれた。
そんな凪沙に一番だと認めてもらえるよう、躍起になって勉強した。
凪沙のそばにいるために、その為には何でも一番になることが必然だった。流石にピアノ教室に通いたいという思いつきのようなワガママはイトさんに受け入れてもらえなかったが。
「やっぱり修斗は凄いね」
その一言を聞くために全てにおいて必死だった。努力は人を裏切らない。もともと運動だけが取り柄だったのに、いつしか何をやっても一番が当たり前となっていった。
それが自分の執着の始まりだったとは、小学生の俺にはわからなかった。
小学校へ通う間は何をするにも一緒だった。学校から帰ってもお互いの家を行き来して暗くなるまで一緒だった。
このままずっと一緒だと思っていたのに……小6の夏から凪沙は塾に通う事になった。
地元の中学ではなく、隣の市の私立中学へ進むためだ。そして卒業と同時に、離れ離れになった。俺にとっては氷の中で息もできず、風景には色の無いそんな生活が始まった。
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