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【最終回】やっと逢えたね
【斗織Side】
高校受験の時なんて目じゃない程に、一年間勉強しまくった。
直接聞けんだから放課後に先生に、級長に聞いた方が楽なんだろうが、1人じゃ理解出来ねェとこがあれば、遼にLimeで送って解き方を教わった。
その方がやる気も上がるし、コミュニケーションの回数も増える。
最後にいつも付けてくれる『がんばれ!』には、何度励まされたことか。
そして季節はめぐり、
約束の春───俺達は、大学生になった。
いつ戻ってくるんだ?って質問に明確な返事が来ないまま、大学の入学式の日がやって来た。
入学式には出席するからあっちで逢おうね!
って、別に地元で待ち合わせて一緒に向かえばいいだろうが。
だけど、そう送ったメッセには、
『だぁめ。色々あるの。
怒んないでね。
だいすき♡( *˘ ³(˘︶˘* )♡ちゅっ』
そんな返信がきたら、大人気なく文句も言えねェ。
門をくぐって周囲を見渡す。
5分前、着いたよメッセが来たから、もう中にいると思うんだが。
俺が来ること分かってんだから、門のトコで待ってりゃいいのに。
風が吹いて、何かが顔に当たったと見上げてみれば、桜並木から舞い落ちた桜の花びらがヒラヒラと……
毎秒5cmの速さで落ちてんだっけか……。
ロマンの欠片もない、受験勉強の合間に覚えた雑学が頭に浮かぶ。
桜か……。
遼とは花見もまだしてねェな。
去年は寒さで開花が遅れて、満開は新学期入ってからだったし、一昨年は……まだ遼と交流を持つ前で。
今年も開花は遅めだから、こっち戻ってきたら2人で見に行こうかと思ってたが、ここで花見もまた一興…………つかアイツ、もう着いてんだよな?
マジで何処に居やがんだよ。
遼のヤツは基本ボーッとして周りを見てねェから、俺が探してやんねーと何時まで経っても逢えねェだろう。
とは言え、この広い構内を闇雲に探すのも……。
桜の木の脇に立ち、入学式用に親が誂えた黒スーツの内ポケからスマホを取り出す。
やっぱり…。揺れてる気配が無かったから。遼からの連絡は入ってないか。
1人で広い構内彷徨って、俺が見つからずに泣いてなけりゃいいが。
Limeの遼のページを開いて、メッセを送る。
スマホを握りしめて俺からの連絡を待ってたのか、返信は秒で届いた。
『構内にいるんだよな?』
『いるよ。』
『すぐに会いたい』
『俺も!』
『会いに行く』
『来て来て♡』
『何処にいる?』
『何処だと思う?
愛の力で見通して?(<●>ω<●>)カッ!』
『講堂か?門とこ?』
『ハズレー(`乂ω・´*)ブブー』
『じゃあ何処だよ』
『答えはね』
『斗織の後ろ│ε:)⁾⁾ピコン』
「っ───!!」
また 強い風が吹く。
振り返る。
桜吹雪が舞う。
風が髪を撫でる。
柔らかく、色素の薄いその髪に、薄ピンクの花弁が舞い降りた。
朱色の小さな唇が弧を描き、ゆっくりと開く。
「ただいま、斗織」
「っ────」
お互いに一歩ずつ踏み出せば、身体同士がぶつかった。
磁力でも発生してるかのように
引き寄せられる───
背中に腕を回して、回されて、抱き締めれば………ああ、少し小さくなったか?いや、俺の背が伸びたからか。
やっぱりデカくなってねェじゃねーか。
だけど、………この匂いと感触、感覚。
───遼だ。
俺の半身だ。
「おかえり、遼」
「うん………うんっ」
「もう何処にも行くんじゃねェぞ」
「っ───うん!」
そして俺達は、周りなんか見えねェ2人だけの世界の中で、対になる互いの唇を重ね合わせたのだった。
ーおしまいー
【おまけ・その後の2人】
「ねえねえ、俺 大人っぽくなった?」
「なってねェよ、チビ」
「む…、ちっちゃくはないもん」
「つーかお前、いつこっち戻ってた? 昨日今日じゃねェだろ」
「うん。…えへへ、お姉ちゃんがね、再会ロマンチック演出する為に入学式までお預けすればってアドバイスくれた~」
(オイ……そりゃアドバイスじゃなくて、自分が遼と一緒に居たかっただけじゃねェのか)
「ね? ロマンチックな再会だった?」
「ロマンチックより、早く会って早く抱きたいに決まってんだろが。沙綾さんに騙されてんぞ、お前」
「えっ!?」
「だから、入学式終わったら、……さっさと うち帰んぞ」
「っ!………はい! よろしくお願いします…」
「……あ、駄目だ。遼がうち来たら家族どころか大和兄さんトコまで大騒ぎだ。(ならラブホか…?)」
「あ、じゃあ、うち来る? 皆仕事で居ないから」
「お前ん家って、今…前お邪魔したタワマンか?」
「ううん。隣の駅に家族で越したんだ。斗織の家の、隣の駅。俺、はじめての1人部屋もらったんだよ。
だから、夜 俺が淋しいってひとりで泣いてたら、走って逢いに来てね」
「大学近くに2人で家借りるってのは…」
「とんでもなく早い段階で却下されました。母さんとお姉ちゃんに」
「だろうな……」
この後、2人はあっという間にキャンバス内の有名人となり、エントリーもしていない学園祭のベストカップルでグランプリを獲得。学内に同性カップルを増やすことになったのですが、それはまた別のお話。
ー本当におしまいー
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