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第1話 希薄な男1
初めはただの興味本位だった。
目の前で、───いや、下…かな?
そんなところで急に別れ話を始めるもんだから、気になっちゃったんだ。
「だから、なんでアタシじゃダメなのかって訊いてるの!」
「だから、こっちも何度も言ってるように、好きになれなかったから」
「ま・だ!なれてないだけかも知んないじゃん!」
冷めた目の男に詰め寄る女。
酷い温度差。
女の子が可哀想だ。
「別に好きな人が出来たわけじゃないんでしょ!? だったら別れる必要無くない!?」
「一緒に居ても、疲れるだけだし」
なんでそんな言い方しか出来ないのか。
男は面倒臭そうに溜息をつく。
女の子も、これ以上追い縋っても傷付けられるだけなのに、引き際が見定められなくなってんのかなぁ。
こんな、総てが面倒、とか、周りが全部鬱陶しい、と思ってそうな希薄な男に縋りつく意味……それ程に整った顔の長身の男は、魅力的なんだろうか。
もしかしたら、富豪の息子で次期社長とか、この歳で発明王の特許取りまくり、みたいな付加価値でもあるんだろうか。
それとも、もうすぐクリスマスだから?
屋上のそのまた上、出口扉の上に寝転んでた俺は、そろそろ2人に気付かれようかと身を起こし、上から脚だけを垂らして太ももに肘をついた。
掌に頬を乗せて、2人を見下ろす。
「ごめんねぇ、彼女。その男、君と別れたら俺と付き合うことになってるから」
ハッとしたようにこっちを見上げて、やっと俺の存在に気付いた女の子。
「だから、駄々捏ねないでさっさと別れてほしいなぁ」
「はあぁっ!?ナニソレ、バカにしてんの!?」
「バカになんてしてないよ。でも俺、君がそんな男に執着して傷付く姿、もう見てたくないな」
なんとなく吐いた嘘とは違う。こっちはちゃんと、ホントの気持ち。
きっと、これ以上この男が君のことを好きになることはないから、こんな男に無駄な時間を費やしてないで、ちゃんと楽しい青春、送りなよって。
「ばっかじゃないの!男利用してまで別れたいとか!サイテーッ!!」
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