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第2話 希薄な男2
バチン───と、思い切り平手打ちされたその男は、ドアを思い切り開け放って走り去っていく元カノを目で追うこともせず、恨めしそうに俺を見上げた。
「別れ話がこじれて困ってたんでしょ、羽崎 ?」
「で? お前は俺と付き合いたいのか? 紫藤 」
「付き合いたいって……」
頬を赤く腫らしたクラスメイト。
付き合いたいのかって言われても、俺は男が好きなわけでもないし。彼女に諦めさせる為に、適当に言った言葉だし……
……でも、そうだな。
3ヶ月周期で、付き合ってる相手を変えるって噂の男。
1人で居るのも、少し飽きた。
3ヶ月でキレイに終わるっていうのなら、丁度良いのかも知れない。
希薄なこの男と、少しだけ時を共有するのも……
「付き合いたい、かな。たまにはそういうのも、楽しそうだし」
「そうか。……まあ、男相手は初めてだが、優しく抱いてやるよ」
楽しいオモチャを見つけた顔で、ククッと喉を揺らして笑う。
「……てか、俺が抱かれるの?」
「俺が抱かれる姿なんか想像したくねェだろ?」
「えー……」
男に抱かれるのは御免だなぁ。
それも、全然好きじゃない男になら尚更。
でも───
「じゃあねぇ、俺がいいって言ったら抱いてもいいよ。それまではノータッチってことで」
「付き合いたいって言っといて、条件付けんのかよ」
不満気な言葉とは裏腹に、楽しそうな表情。
「俺のカラダ、待つほどの魅力ない?」
「挟める胸もねェくせに、何言ってやがる」
両手を伸ばして仰ぐから、
仕方ないなぁ……
望まれた通り、その手を掴んで飛び下りてやる。
抱き留めてくれた胸は、見た目よりも幾分ガッシリしてる。着痩せするタイプなのかも。
背丈も、俺より10cmくらい高い?
俺はちっちゃい訳でもないけどおっきくもない。166…や、四捨五入したら170cm、痩せ型。部活もやってないから、適度な筋肉もない。
「腰細っ」
掌が値踏みするように、身体のラインを撫でていく。
「色っぽい?」
見上げると胸を掴まれて、
「無乳」
ニカッと笑われた。
同じクラスの羽崎のこと、俺はよく知らなかったけど。
そんな笑い方もできるんだ……
だったらあんな無愛想な顔じゃなくてさ、さっきの彼女に見せてやれば良かったじゃん。その顔。
悪くないよ。格好いい。
「じゃあ俺、羽崎のカレシって事でいいの?」
見上げて訊ねると、
「男だけど、お前がカノジョ」
頭の後ろを押さえられて、唇をぶつけられた。
「んっ……もう、乱暴だなぁ」
いきなりのキスに文句を言うと、
「優しくして欲しかったのか? 気付いてやれなくて悪かったな」
ニヤリと笑って、また顔を近付けてくる。
今度はフニっと重ねられた唇に、下唇をはむ、と挟まれた。
初めてキス、してしまった。
しかも自分よりデカイ男なんかと。
それが全然気持ち悪く感じないなんて……
俺、自分で思ってたよりずっと、ホントはさみしかったのかな……。
深くなってくキスを受け止めながら、
あぁ、とんでもないことを始めてしまったな、と……
これからの3ヶ月を憂いながら、俺は羽崎の背中にきゅっと腕を回したのだった。
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