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第21話 自由人
3~4時間目の間にパッと、電車の中で具合が悪くなって、偶然ホームで会った斗織に付き添ってもらって駅の救護室で休んでたんだと説明すると、中山は驚いたようなショックを受けたような、良く分からない奇妙な顔をした。
「いつから名前で呼んでんだ!?」
頭を抱えて何か呟いたけど、声が小さくて届かなかった。
だけどすぐにハッとしたようにこっちに身を乗り出して、
「もう大丈夫なのか!?」
ほっぺやおでこをペタペタ触られる。
「あ、うん…。斗織が助けてくれたから」
斗織の名前を口にする度、なんだか嬉しいような恥ずかしいような、不思議な気持ちが胸に溢れる。
勝手に顔が緩んで、きっと俺 今、すっごくだらしない表情してるんだろうなって…。心の内が全部晒されちゃうみたいな感覚に、恥ずかしさを感じないでもないけど。
でも、それ以上に へにゃん…って笑みが勝手に溢れ出しちゃうんだから仕様がない。我慢がきかないんだもん。
恥ずかしいのには、目を瞑ろう。
「う……うん、それなら、よかった…」
中山は安心したような、でもそれだけじゃないような、…またさっきみたいなちょっと変な顔をした。
「なかや…」
「遼、次、化学室に移動。用意出来てるか?」
斗織の声だ───!!
背後から掛けられた声に、胸がどきんと跳ね上がる。
振り返って見上げようとすると、頭にパスッと何かを乗せられた。
「んん~?」
化学の教科書とノートだ。
「どうした?まだフラフラしてんなら、また抱いてってやるか?」
「あ……」
顔を覗きこまれて、ちょっと顔が熱くなる。
さっき、斗織に抱っこされた時……
がっしり支えてくれた逞しい腕に、 全然ふらつかないしっかりとした足取り───
すごく安心して、このままずっと抱っこしてて欲しいなぁ……なんて思ったんだった。
だから俺にとってそれは、からかってるんだとしても、なんて素敵なお誘いなの、ってやつで。
でも、さすがに断んなきゃ、ってワタワタしてしまった俺に、斗織はフッと笑みを溢すと…。
腰を屈めて顔を傾けて、ビックリしてる俺に、
チュッ…て……
キスを、した。
「ヒッ……何してんだよ羽崎ッお前っっ?!」
中山が奇妙な声を上げて、小さな声で斗織を怒鳴りつける。
「あ?キスしたくなったからした。お前だってやんだろ?」
「やんねーよ!やりたくても出来ねーよ!この自由人が!!」
「そうか?相手が構わなけりゃ平気だろ?」
「相手、構う!ここ教室!お前、男!」
「なんでカタコトだよ。面白ェな、中山」
「面白くねーよっ!!」
なんか、仲良しだな…。いいな……
イスに横座りして楽しそうな2人を羨ましく思ってると、
「リョーちん!」
突然背後からギューッと抱きつかれた。
「トオルから聞いた!もう平気なのかよ~っ」
「あっ、おはよ、りぅがくん」
「……もーっ、リョーちんのそれサイコー!ちょーっカワイイ!!」
叫んでまたガバチョッと抱き付こうとしたリューガくんの身体が、不意に宙に浮き上がる。
「マメ、教室移動」
「おう!……つか、はーなーせーっ!!」
「ほら、遼、行くぞ」
「はい」
手を差し出してくれるから、握り返して立ち上がる。
左手には俺の手、右腕にはリューガくんの腰。
やっぱり斗織は力持ちでかっこいいなぁ……
重さなんて全然感じさせない涼しい顔を ぼーっと見上げてたら、やにわに斗織のお腹を蹴りつけ自由になったリューガくんが、くるんと地面に下り立った。
ネコみたいでスゴい。それに可愛い。
やっぱり可愛いのは、俺じゃなくてリューガくんだよなぁ…って思いつつ、ペンケースを持った手で教科書とノートを抱えて、また俺は斗織たちと4人で廊下を歩いたのだった。
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