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第20話 別れたら

暫く駅で休ませてもらって、学校に着いたのは三時間目が始まってから少し経った頃だった。 運よく担任の廣瀬先生の数学の授業だったから、2人で前の入口から入る。 「ゴメン、ヒロセン、遅くなった」 ドアを開けて先生に挨拶すると、斗織はスタスタと歩いて行っちゃう。 「すみません、先生っ」 足早に追いかけようとすると、振り返った斗織に、急がなくていい、と言われた。 「はい」 頷いて、ゆっくりと先生の開けてくれた教壇と黒板の間を通る。 「カバン、置いとくぞ」 「うん、ありがとう」 笑い掛けるとぶっきらぼうに頷き、自分の席へと歩いて行った。 その後ろ姿は颯爽としていて、かっこいいなぁ…なんてぽぉっと見送ってしまう。 「紫藤、もう平気なのか?」 教卓に腹這いになるように呼び掛けられて、先生を見上げる。 「はい。授業、中断させてすみませんでした」 「ムリすんなよ」 ぽん、と頭を撫でられた。 「じゃあ授業に戻るぞー。紫藤、羽崎、教科書の152ページを開け」 「はぁい」 最近、頭撫でられること多いなぁ。 …あ、最近じゃなくて、昨日からか。 カバンから取り出した教科書を開いて、目の前の黒板を見上げる。 視線の半ばで先生が、羽崎、と斗織に呼び掛けた。 「ん?」 応える声が聞こえたから、つい振り返って視線を向けてしまう。 「ご苦労さん」 「いや、別に、俺のオンナだし」 「は……?」 あ、先生、固まった。 「出た!トオルの俺のオンナ発言!」 リューガくんがおちゃらけて言うと、どっと笑いが起こる。 ……でも、微妙な表情してる人も半分ぐらい。 多分、昨日の教室でのキス現場を見ていたり、聞いたりした人達だと思う。 俺は、それでも構わないけど………斗織は、居辛くなっちゃうって、感じたりしないのかな……? 俺と別れたらまた、女の子と付き合うんだろうし…。 男と付き合ってた男と次に付き合おうなんて、……ちゃんと斗織のことを見て好きになってくれる子と、付き合えればいいけど。 「…とう、紫藤ってば」 指先でツンツンと腕を突付かれて、俺はしばらく中山に呼ばれていたことに漸く気付いた。 「何かあった?平気?」 「あ、…うん」 後で話す、と小声で返して、黒板に向き直る。 そして黒板に書かれた文字を写しながら、どこまで話せば良いものか、と頭を悩ませた。

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