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第1話 再会

 ――故郷へむかう列車の窓に、春先の景色がひろがっている。  三月末の北陸は、まだ雪が所々に残っていて、空も灰色がかり見るからに寒そうだ。  くすんだ黄色の田んぼに、枯茶色の里山。そのふもとに連なる古い木造の家屋――。   けれど、子供の頃になじんだ記憶の光景に、やっとひとりで戻ってこれたのだという嬉しさがこみあげる。  加佐井雪史(かさいゆきはる)は、手にしていたスマホを窓辺へとかざした。  ガラス窓を背景に、一枚の写真が光を反射する。  小さな画面のなかには、笑顔の青年の姿が写っていた。  明るい栗色の髪は、ミドルショート。  かるくウエーブがかかっていて、ふわりと跳ねている。  それが愛嬌のある彼の顔によく似合っていた。  切れ長の大きな瞳に、形のいい鼻筋と口元。  顔立ちは魅力的で整っているのに、いつもヘンな表情ばかり写真にとってはSNSにアップしているから、雪史は更新を確認するたびに笑わされる。  写真に添えられたコメントも笑いをさそうノリのいい文章ばかりで、だから雪史は、故郷を離れてからの生活がどんなにさびしくても、彼の明るさに支えられていた。  相手の青年は、雪史がずっとウェブ上の彼を追いかけていることを知らない。  元同級生の彼には北陸から神戸に引っ越してから一度も連絡をとっていなかったから。  逢いたい想いはいつでもあった。  でも、雪史にはその勇気がなかった。  写真のなかの彼と違って、大人しそうな容貌の自分は、中身もそのまま小心で臆病者で、だからこれまでは流されるまま生きてきたからだ。  十三歳の時にこの地をはなれ、十八歳の今になってやっと、雪史は生まれ育った地に帰ってこれた。  大学進学を機に、やっと自由になれた。 『東泉橋ー。東泉橋』  車内アナウンスの声に、雪史は慌てて立ちあがった。  スマホをポケットにしまい、ボストンバッグを荷物棚からおろして出口へとむかう。  見覚えのある街なみが眼前に現れると、胸の奥からじんとするような嬉しさがわきあがってきた。

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