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第2話

 ◇◇◇  在来線に乗りかえて一時間。それからバスにゆられて十五分。停留所からまた徒歩十分。そうしてやっと、目的地についた。 「こんにちは……」  古い一軒家の玄関戸を、カラカラとあけながら声をかけると、奥から「はいはい」と聞きおぼえのある声が響いてくる。  ふんわりと暖かいにおいが、明るい声とともに流れてきた。 「ああ、ああ。雪ちゃん、いらっしゃい。やっとついたんね。長旅お疲れさま」  エプロンで手をふきながら、祖母の園子(そのこ)が台所から顔をだしてきた。 「ばあちゃん」  五年ぶりに見る、小柄で優しげな姿に、一瞬にして気持ちが子供時代へとかえっていく。さしだされた細い手を、思わず両手で握りしめた。 「雪ちゃん、元気そうでよかった。ここまで間違わずにちゃんとこれた?」 「これたよ。ちゃんと覚えてたから。それよりばあちゃんも元気そうでよかった」  亡くなった母に似た、やわらかな笑顔にほっとする。 「神戸からここまで遠かったやろ。ささ、入って、入って」  うながされて、スニーカーを脱いであがると、以前とは少し違う家の雰囲気に、なんとなく違和を感じて見渡した。  柱や天井はそのままなのに、壁やドアが新しくなっている気がする。 「なんか、家の中、変わった?」 「そうそう、雪ちゃんが一緒に住んでくれることになったから、……リ、リホーム? ってのしたんよ」 「リフォーム?」 「そう、それそれ」 「おじいちゃんも三年前に死んじゃっていなくなっちゃったし、この家もだいぶ傷んでたしね。だから私の趣味でいろんなところきれいにしたん。二階の和室もね、ひとつ雪ちゃん用に板間にしたんよ」  まだ、工事中のところもあるけれど、と言いながら手をひかれて階段までついて行く。 「いま見てみる? すごく素敵にしてもらったんよ。さっき仕上げが終わったばかりだから、ちょっと見てみまっし」  笑顔の園子が、嬉しそうに階段をのぼって行く。ついて早々、再会の挨拶もそこそこに部屋を見せようとする祖母に、雪史も苦笑しながらついていった。 「ここ、ここよ。この部屋。さあ、入って」  ドアノブを引いて、雪史を先に部屋に入れようとする。まるで誕生日プレゼントでも渡そうとするかのように、目が期待に輝いていた。

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