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第7話

 泡と先走りが潤滑剤になって、尻の下を何度も往復する。太が賢の尻を指で押して広げた。 「な、なあ賢…挿れていいか」 「い、嫌だ…そこはっ」 「頼む、先っちょだけ」 「だから嫌――ああっ!」  泡に包まれた太の先端が、ほんのり赤い門にねじこまれた。言葉の通り“先っちょ”全体が入ったところで、太は動きを止めた。 「くっ…!」  壁を爪でひっかき、痛みを堪える賢の背中から、汗で泡がどんどん下に流れる。 「賢…動かすぞっ」  太の攻め。前に前に出る。奥に入ると、粘膜の壁が竿をぎゅうぎゅうに締めつける。 「うっ…」  太が賢の竿をつかんだ。上下に強く擦る。 「つらいか、賢?」  腰をゆっくり動かしながら、背後から太が尋ねる。 「い、いや…、稽古を思えば、つらく…ない」  太の手の中は擦るたびに、いやらしい音を奏でる。それは賢の中からも聞こえる。 「あっ…はぁ…、おかしく…なり…そうだ」  いつの間にか、賢も腰を動かしていた。 「うぁっ、キツい、賢…! も、もう出…」  太が身を引く。太の“送り出し”。勢いよく白いしずくが賢の尻にかかった。  熱い吐息を、賢は背中に感じていた。ぶつかり稽古で息が上がるときとは違う、なまめかしい吐息。  太は賢の体を裏返すと、正面でひざまずき、怒張してひくついているそこに思いきり吸いつき、舌で愛撫する。 「ふ…太…、ダメだ…出るっ」  太の肩を押して体を離させた。濃い白濁が顔面にかかり、太は思わず尻餅をついた。賢の“浴びせ倒し”。 「いてっ」  その痛さは、尻餅ではない。太は目を押さえる。 「目に入ったのか? 水で洗いながせ!」  思わぬアクシデントに苦笑いしながら、太は水で目を洗う。  体を拭き、賢は太のスウェットを借りた。太にはゆとりのあるサイズだが、賢にはキツい。 「悪いな、俺のだと小さいけど我慢してくれ」  顔を拭く太の方を見ると、目が赤い。賢が心配そうに覗きこむ。 「俺の方こそ悪い。目が痛むようなら、明日眼科に行った方がよさそうだぞ」 「平気平気」  太が賢を見上げ、急に吹き出す。 「何だ?」 「いや、その…何だか全然、色気ってものが無いな」  照れた賢は、顔を背ける。 「バカ、いい歳したオッサンに、色気もクソもあるか」 「お前はイケメン俳優じゃないか。おば様たちのアイドルで。女優さんと色気のあるシーンだって撮ったクセに」  年甲斐もなく拗ねた口調になった太は、リビングに置かれたローソファーに、ドカッと腰を下ろした。その隣に賢も座る。 「じゃあ、色気のあるキスでもするか?」  唇を舐めながら目を細め、面と向かってそんなふうに言われ、太は何も返せない。さすが俳優だ、眼力が違う。 「嘘だよ太。そんな芝居がかったこと、お前とは絶対にしない」  太は安心しきって賢の肩に腕を回し、満面の笑みを浮かべた。飾りも何もない、風呂場でのあの姿が、本当の賢なのだ。世のおば様たちも、女優さんもしらない姿。  二年半で引退して、俳優の道を進んだ賢。十九年相撲人生を歩み、ちゃんこ屋になった太。長年、別々の花道を歩んできた二人は今やっと、同じ土俵に立つことができた。 ――――

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