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第1話

リーマンショック以来急激に減ったとは言え御付き合い程度の接待と名のつく飲み会は今なお行われており、それは憂鬱なものでしか無いが30半ばも超えればこういうものなのだと割り切ることは出来るようになった。 立場的に本音を隠して愛想笑いも自然に出来るようになったし、多少の無茶振りも交わせるくらいのスキルを磨いた。 が。 「ねえ?幸村部長」 隣に座る男に肩を触られる。 「……そうですね」 コイツなんだろな。 やけに馴れ馴れしいし、さっきからボティータッチが多いのがとても気になる。 僕みたいな男相手にそんな気を起こす奴なんてそう居ないとは思うけれど。 (太腿に手……っ!!置かれてないか?!コレ!!!) 接待中に太腿どころか内股に、するりと掌が滑って際どいラインを撫でられている僕は、愛想笑いも引き攣るってもんだ! 「木村常務、大丈夫ですか?飲み過ぎなんじゃ?」 机の下でさり気なく脚を組んで掌を払い除ける。 「全然!2軒目は高級クラブにしましょう、ウチが持ちますから」 払い除けたその手を死角でがっちりと握られた。 「ね?」 これはヤバイ。 こういう視線には覚えがある。 「あー……このご時世に高級クラブなんて御社は……さすが、羽振りがいい……デス、ネー……」 「その辺はほら!部長にはいつもお世話になっていますから!私のポケットマネーで!任せてください!!」 誰も接待費の内訳の話なんかしてねえよ! ということはさすがに言えない。なんせ、弊社の最重要顧客様なのである。今後の我社の明暗がかかっているのである。 「君たちは高級クラブなんて行ったことある?」 「いえ、無いっす!」 是非お供させて下さい!!なんて声を上げ調子の良い返事をするペーペー共に呆然としている間にもまた脚の間へ侵入されそうになり、すかさず「木村さん!!飲み物いかがですか!」と叫ぶ勢いで声を挙げればそういうことに関しては優秀な我が部下たちがサッとメニューを手渡して事なきを得た。 今のところは。 (そもそも既婚のジジイがオッサンを口説いてどうするんだよ) あからさまに嫌な顔のまま目が合って、意味深に目を細められる。 オールバックに撫でつけた髪が似合いすぎていて、センスの良い出で立ち、割と身長がすらりと高くて男前であるのが腹立つ。 タイプじゃないけど!! 「二次会も宜しくお願いしますね」 にこりと笑いかけられて、行きたくありませんとは言えない自分にげんなりした。

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