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第1話

 一目惚れだった。  都内の電気店に勤める木野大冶(きのだいや)は、うぃんうぃんと蠢くマッサージチェアで口を開け、爽やかダンディな中年男性を見上げていた。 「寝てました?」 「————、はい」 「効果抜群ってことかな。お待たせしてすみません。ちょうどいいからこのまま説明していきますね」  深く、穏やかな瞳は柔らかで優しい。心地よい声にドキマギし、伸びてくる長い腕に体が痺れた。忙しない血流に頭がぼうとして、説明が耳に入らない。 「————大丈夫ですか?」 「え、はあん」 「……ああ」  仕様書を片手に瞬く、薄くシワの刻まれた目線を追って、木野は首を下げた。スラックスの股間がくっきりと持ち上がっていた。さあっと血の気が引き、同時にこめかみから火を吹く快挙で木野は慌てた。 「すいませんこれっ、おふっ、超常現象、あふうっ」  押さえた股間を機械の振動で揉まれ、オットセイのような声が出た。別に怪しいことをしていたわけではなく、今日は安息フェアの前日で、マッサージ器具製造販売会社の社員が目玉商品の説明に来るというので、先に試乗していただけだった。なんでこんなことに、と涙目で限界にあるものを握りしめ、木野はリモコンを手に目を丸めている作業着の男性に告白した。 「好みですっ!」 「え」 「間違えました! すいません……! 終了、ボタンを、ぅ……!」 「ああ」  ぴ。  可愛い音で振動が止まった。 「すいませんでした、ほんと……」 「いえいえ」  木野は打ち拉がれた頭で深く項垂れ、醜態を詫びた。出来ればいっそ、人生の終了ボタンをポチッとしてもらって二七年の童貞人生とおさらばしたい気持ちになった。 「疲れてるときはね、よくありますよ。気にすることないよ、若いんだし」  慰められている。嫌味のない声に、調子よくドクドクと騒ぎ出すものを睨み、ありがとうございますと棒読みで返した。 「まあ、オレは役得だったな」 「————へ」 「ゲイなんですよ。……内緒ね?」  ポカンと上げた顔の先で、仕様書をヒラヒラさせて戯ける優しい目に、スコンとハートを撃ち抜かれた。 「ぼくもです……!」  わなわなと唇を震わせ、生まれて初めてそれを告白した真っ赤な顔に、ダンディさんは「そんな気がした」と笑っていた。

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