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第15話(完)
福田のスマホのナンバーは会社名義と言っていた。本当か嘘かは知らない。
指定された東京駅の改札に駆けつけ、木野は福田の姿を探した。二十年の時を経ても、福田を見つけ出す自信はあった。人混みに首を伸ばし、スマホを取り出し電話を掛けた。
「もしもし」
『もしもし』
ざわめく構内で二重に聞こえた声に、木野は飛び上がって振り向いた。
「木野大冶さんですか」
「そうです」
誰だ。
ダークグレーの三つ揃えを着こなす規格外の美形男にたじろいだ。
「福田様がお待ちです。車を待たせておりますのでご同行を」
背中に手を当てニコリと微笑む男に狼狽え、慌てて辺りを見回した。複数刺さる視線が痛い。慣れた体捌きでエスコートされ、ごった返すターミナルの外へ出た。賑やかな車寄せで扉を開けたリムジンに、木野は半ば放心のまま乗り込んだ。
「どういうことですか。さっきの電話は、あんたか」
「左様で。お探しの方は、来年の春に戻られるそうですよ」
広い車内で隣に座った男に、腿を撫でられた。
「詳しい話は後ほど、福田翁からお聞きください。失礼致します」
顎を噛み締め、アイマスクを付けられるまま拳を堪えた。
二十年追いかけ、よくやく掴んだ手がかりだ。
離して堪るか。飲まれて堪るか。
「あなたが素敵な方で良かった。ダイヤさん」
木野は頬を緩め、口の端を引き上げた。腿を撫でる手を探り、握ってやった。
ダイヤでいいなら、この程度は屁でもない。伊達に歳はとってない。
図太くしぶとく、凡人らしく。
中年ダイヤは晩秋の夜に、輝きを求め、鈍く笑った。
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