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第1話「帰省」
「おじいちゃん、ふっといみみず!!」
幼い時の記憶。祖父の畑で土いじりをして遊んでいた。優しい土の匂いに包まれ、柔らかく温かい感触に心が癒された。
畑仕事の手伝いをしながら、カエルやバッタを捕まえて、採れたての野菜や果物を摘まみ食いしては怒られた。
「拓也 、そろそろ飯食いにいくか。」
手を繋ぐと、祖父の掌は畑仕事で豆だらけになっていた。荒れ果て硬くひび割れたそれに強く握り締められると、すごく痛かった。
「そうか痛いか。おじいちゃんのおじいちゃんの手も痛かったぞ。それ、もっと強く握ろう。」
益々強く握られ骨が折れるかと思ったが、大好きな祖父のする事だから許せた。
大学進学を機に実家を出て、中小企業に就職した。祖父とはしばらく疎遠になっていたが、突然母親から電話があった。
「おじいちゃん、腰痛めて入院しちゃってねぇ。来週お盆だけで良いから、こっちに帰って来れないかしら。」
実家までは車で二時間程の道のりだ。祖父の様子が気なり、週末に一度顔を出すと言った。
「ただいま。」
久しぶりの帰省だった。実のところ、現在の祖父との関係はあまり良くなかった。
高校の進路相談で大学進学を希望すると、当たり前の様に畑を継ぐものだと思っていた祖父から猛反発を食らった。
根気強く説明を続けたが、結局最後まで許してもらえなかった。
実家を出てからは順風満帆な人生に思えた。
―――しかし、三十歳で嫁に逃げられ離婚した。生まれたばかりの息子を連れて一時帰省すると、それみたことかと説教を垂れてくる祖父と大喧嘩になり、それ以来帰省していない。
あれから息子も成長し、来年小学生になる。そろそろ、顔を出したいと思っていたので丁度良かった。母親に頼み、息子を連れて祖父の入院する病院へ見舞いに行ってもらった。
「あのね!ひいおじいちゃん、たけとんぼつくれるんだってー!」
笑顔で帰宅した息子にホッとした。祖父は一週間程で退院は出来るが、しばらくは安静が必要だ。その間の畑の管理を母親に尋ねた。
「それがねぇ、何かあった時は、お隣さんに任せてあるって言うのよ。悪いけど、ちょっとご挨拶行ってきてくれる?」
お隣さんは三年前に引っ越して来た。広大な敷地にいい年の男が一人きりで住んでいるとあって、変わり者だと近所でも話題になっている。祖父とは畑仲間で、よく酒を酌み交わしていたらしい。
母親から日本酒の一升瓶を手渡され、息子と挨拶に行くことになった。
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