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第2話「お隣さん」
「ごめんくださーい。」
玄関で何度も声を掛けたが反応が無い。夕飯の買い出しにでも出掛けたのだろうか。諦めて帰ろうとすると、庭先から息子の声がして慌てて後を追いかけた。
「こら!勝手に庭に入ったら…」
「きゃぁっー!!」
違和感のある野太い声が響き渡った。縁側の窓越しに人の気配がして振り向くと、婦人服を身に纏 った男が、今まさにストッキングに足を通そうとしているところだった。
「しっ、失礼しましたー。」
見なかった事にしよう。くるりと背を向け立ち去ろうとしたが、すかさず呼び止められた。
「ちょっと待ちなさいよ、あんたー!!」
手に持っていたストッキングを投げ捨て、すごい勢いで裸足のまま駆け降りてきた男に、親子ともども首根っこを捕まれ、縁側に引きずり込まれた。
「他に連れはいないわね?」
コクコクと頷く。あまりの迫力に息子の顔は、今にも泣きそうな程ひきつっていた。
「うちに何しに来たの?」
「あっ、あの!隣の渡辺です。お恥ずかしながら、祖父がヘルニアになりまして、畑の事でご相談に伺いました!」
首根っこを掴まれていた手が緩んだ隙に、母親に持たされた一升瓶を手渡し、あらためて自己紹介をする。
「いつも祖父の祐作 がお世話になってます。孫の拓也 です。これが息子です。ほら、ご挨拶して。」
「わたなべけいすけ。ろくさいです!!」
息子の頭を無理やり下げさせ、さらに勝手に庭に入ってしまった非礼を詫びた。
「子供のした事だから気にしなくて良いのよ。こちらこそ、いつも渡辺さんとこのおじいちゃんにはお世話になっているわ。」
男は小林道隆 と名乗った。人を見た目で判断するのは失礼だが、正直あまり関わりたくなかった。そそくさと本題に入り、畑の管理について何か祖父から頼まれていないかを尋ねた。
「えぇ、それなら任せて頂戴。何かあった時はお互い様よ。」
頼もしい言葉に安心していると、何か思い付いた様に小林が不敵な笑みを浮かべた。
「ところであんた達、今夜は実家に泊まるんでしょ?明日の朝、そっちの畑見に行くから、ちょっとは手伝いなさい。朝5時に現地集合よっ!!」
こちらの都合などお構い無しだった。最後にバシンッと尻を叩かれ、思わず声を上げる。
「ヒィッ!!」
「あら、イイお尻じゃない。」
尻を優しく撫で回され、背筋が一瞬凍りついた。何だか妙な事に巻き込まれてしまったのかもしれない。
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