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第3話「ゲーム」
寝ぼけ眼の息子を連れ、朝五時に畑に向かうと、すでに小林が待ち構えていた。
「おじちゃん、かっこいいー」
「いやだぁ、ジロジロ見ないでよね!」
昨日とは違い作業服で、頭にタオルを巻いた姿がなかなか様になっていた。
気温の上がらないうちにと、収穫や除草作業を済ませた。ほんの二時間足らずの作業で、もう身体は悲鳴をあげていた。
「もう限界です!朝食にしましょう。」
母親が実家で朝食を用意していた。遠慮する小林を誘い、みんなで実家に向かった。
「いらっしゃい。うちの息子は足手まといにならなかったかしら?」
「いやいや、とても助かりました。それから朝食 もご馳走になります!」
玄関先で母親と話す小林の声が、先程より明らかに低く男性的に聞こえた。思わず顔を上げると、すごい剣幕で睨まれた。どうやら、普段はお姉言葉を封印しているようだ。
そんな事など知るよしもない息子が、無邪気に口を開いた。
「おじちゃん、へんなしゃべりかたするのやめたのー?いつもみたいに、おん…」
「っわ、っわ、っわぁあーーー!!」
慌てて息子の口を塞いで、苦し紛れに言い訳をした。
「っあ、あんまり、方言をからかったらいけないよ!!」
息子を連れ出し、ゲームを始めようと提案した。お姉言葉がバレたら負けのゲームだ。ゲームをクリアしたら、豪華な景品が待っている。息子は目をキラキラと輝かせた。
「おれ、がんばるよ!」
何とか無事に朝食が済むと、収穫した野菜の出荷の為、農協に行く事になった。小林も寄りたい場所があると言うので、一緒に車に乗ってもらった。
「さっきは、ごめんなさいね。」
急にしおらしい態度の小林に、何だか気が引けた。後部座席から息子の弾む声が飛び込んできた。
「おじちゃん、もどったぁ!!げーむくりあ??」
一気に緊張が解れ、車内は和やかなムードになった。農協で出荷作業も終わり、小林に案内された通りに道を進んでいくと、見慣れた建物が見えてきた。
そこは祖父の入院する病院だった。あえて行き先を告げなかったのは、一緒に見舞いに連れて行こうとしての事だった。
「絶対にいきません。」
断られる事は想定内なのか、あまり動じている様子はない。今度は息子に言い寄ってきた。
「けいちゃん、お見舞い行かない?ゼリーもあるから、一緒に食べましょう。」
「おみまい、いくー!!」
あっさりと懐柔された息子の将来に不安を覚えつつも、小林一人に息子を任せる訳にもいかず、仕方なくついて行く事になった。五年振りの祖父との再開だ。
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