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第4話「見舞い」
「ゆ〜ちゃぁ〜ん!!会いにきたわよー。」
祖父を、そんな風に呼ぶ人を始めて見た。呆気にとられていると、小林から背中を押された。
「今朝ね、ゆーちゃんの畑のお世話手伝ってもらったのよ。とっても手際が良くって助かっちゃったぁ。」
「ふんっ、当たり前だ。」
まだ根に持っているのが、明らかだった。やはり、顔を出したのは間違いだったのかもしれない。一緒についてきた息子も、険悪な雰囲気を察したのか珍しく静かだ。
「そんな言い方しないの!たっくんも、久し振りの再開なんでしょ。なにかご挨拶はないの?」
「ご、ご無沙汰してます。」
挨拶と言っても何を話したら良いのか、皆目見当がつかなかった。話すべき事は沢山あるはずなのに、いざ祖父を目の前にすると後ろめたい気持ちになる。
「もう!二人してカチコチなんだからぁ。かたくするのはアソコだけにしてよねぇ。」
「「!!!!」」
子供がいる前で何て事を言うんだと、小林を鋭い目で睨み付けた。ベッドの上では、祖父も同じ顔をしていた。
「あらっ?こういう時は、息がぴったりなのねぇ。」
まんまとはめられたと言うべきか。それまで重々しかった病室に、ずっと昔に聞いた優しい溜め息が響いた。祖父は観念した様に、ぼそりと口を開いた。
「男手ひとつで、何とかやれてる様だな。」
「えっ?」
思いがけない言葉に目頭が熱くなった。
お互い視線は合わせずに、ぽつりぽつりと言葉を重ていく。
「拓也は好きか?」
「うん。ぱぱだいすき!」
ご飯はちゃんと食べているか、休みの日は何をして過ごしているかなど、他愛もない内容ばかりだったが、過ぎ去ってしまった過去を埋めるには十分だった。
畑を継がなかった理由や、離婚した原因などには一才触れなかった。それは、のちのち時がきたらゆっくり話したいと思った。
「今からでも、戻って来るつもりはないのか。」
「じいちゃん…。」
帰り際の祖父からの一言に、一瞬時が止まった。勿体無い言葉だが、今の自分には素直に頷く事は出来なかった。
だからと言って、せっかくの好意を無下にすることも出来ず、逃げる様にこの場を後にした。
「また来週来ます。」
翌週金曜仕事が終わると、その足で実家に向かった。土日と二日間の有給休暇で四日間のお盆休みが始まる。
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