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10年に至るまでの健やかな日々編 8 愛されてる
皺なんてない。
「っ……ン」
その目尻に一誠がキスを一つ落とす。
「あっ」
その唇で耳、首筋、鎖骨、丁寧にキスを一つずつされて、蜜香が部屋中に溢れていくのがわかる。
「やぁ……ンン、ん」
欲しい欲しいって、愛しい人を誘惑したくて、甘い甘い香りを放つんだ。
「? な、に? 一誠」
なぜか、愛撫の最中、一誠がクスッと笑った。
なんか俺、変だった? 素直に、率直に、蜜香を出しすぎた、とか? 欲しがりすぎた? でも、だって、凄く欲しくて。一誠のことが。
「んー? いや、今日の蜜香はミルクみたいな甘い香りだからさ」
「ぇ?」
「いつもは花みたいに甘い香り。本当にさ、授粉をさせようとする花みたいに誘惑されちゃうんだけど」
一誠がまた少し笑って、そしてその香りを確かめるように、うなじにキスをした。そして、俺の髪に顔を埋めながら、目を閉じ、二人っきりの寝室なのに、俺のことを隠すように抱き締める。
「今日のトウからする香りはミルクみたいな甘さでさ」
「……」
「なんだか美味しそうなケーキみたい。もしくは赤ちゃん、かな」
「何、それ」
あんまり嗅がなくていいよ。そんなたくさん。
元々蜜香なんて好きじゃないんだ。だって、セクサノイドだもん。本当に本能で出すわけじゃない。滑稽でしょ? ベータにだってわかるように香る甘い甘い誘惑の香りなんてさ。誰彼構わず巻き散らして、みっともないって。
「赤ちゃん抱いて……って、変なの」
はしたないって思うんだ。
「優しい匂いだよ」
「……」
「君がさっき食べたあのミルク煮の香りだ」
はしたないって、思ってた。
「……トウ」
「あっ」
「愛してるよ」
「っ」
その言葉に、そして、うなじにキスで所有の痕を刻む唇に、包み込んでくれる腕に、また、俺の身体はミルクに似た柔らかい蜜香を漂わせる。
「トウ」
「ぅ、ン」
肩に歯を立てられるの、好き。なんの変哲もない、性感帯っぽくない場所にキスされるの好きなんだ。俺の全部を一誠が好きって思ってくれてるって感じるから。
一誠のくれる愛撫はセックス をただ行為じゃなくて、愛しいって気持ちでするものだって俺に教えてくれる。
ベッドの上に寝そべって、腰をくねらせ、一誠を欲しがる俺のうなじから、背中、腰、そして。
「あっ……ン、やだ、そこ、キスするの」
「なんで?」
慌ててキスを邪魔しようと手を伸ばしたら。その手を掴まれた。
だって、そこは。
「濡れてて、可愛いよ」
「そんなわけっ、な、ひゃあ……あ、あっ」
そこは濡れてしまうから、一誠の顔を汚しちゃう。
「俺のことを欲しがってるってわかって、可愛いのに」
「あ、あっン」
くちゅりと甘い音がした。一誠の指を難なく飲み込んで、咥えて、物欲しそうに中が指にしゃぶりつく。
「くぅ……ン」
気持ち良くて。たまらなくて。切なくて。
「ここ、トロットロ」
恋しさが溢れて、びしょ濡れになっちゃうんだ。
「あ、だって」
早く一誠のことが欲しいって、身体がおねだりをしちゃうんだ。
「一誠っ、一誠」
指に嬉しそうにしゃぶりつく身体がキュンキュンって、締め付ける。キスも前戯も好き。一誠の唇も、指も大好き。全部が欲しくてたまらないくらいに。
「一誠っ、もう、ちょ、だい。早く」
一誠のこと、大好きなんだ。
「挿れるよ」
「あ、ぁっ」
指を抜かれて、身体が切ないって小さな孔をヒクつかせる。待ち焦がれてる。
「ン……ぁ、一誠」
早く、ここを貫いて。
「あぁ」
一誠でいっぱいにして。
「可愛い、自分から手でそこを拡げてるトウ」
「だって、っ一誠のこと」
欲しくてたまらない。
「そのまま拡げてて」
「あ……ぁ……ン」
「挿れてあげる」
早く、来てよ。俺の一誠。
「トウ」
「あ、ぁ……ああああああああっ」
小さな、でも、凄く欲しがりな孔を一誠の硬いのが抉じ開けていく。
「本当に可愛い。挿れただけでイったの?」
「あっン」
ベッドと俺の間に手を入れて、射精したばかりのそこを撫でられると、一誠を咥え込んだ孔がたちまちしゃぶりついて、気持ちイイって伝えたいと絡み付く。
「トウの、ミルクみたいに甘い」
「ぇ? ちょ、そんなの舐めちゃ」
俺の身体から出た物なんて舐めちゃダメなんだ。こんなポンコツなセクサノイドのなんて口にしたら、腹を壊すからって、慌てて遮ろうとした手を掴まれ、そのまま、後ろから抱き締められながら。
「なんで? 甘いよ?」
「やだ、やだ、あっ……待っ、深いっ」
奥をペニスでクンって突かれた。
「トウ」
「あ、あ、あ、あっ」
奥は、ダメ。
「あ、一誠っ、アぁっ……ん、あっン」
何も考えられなくなっちゃうから。
「ぁ、ん、気持ち、いっ」
一誠のこと以外、何も。
「あ、あっ、そこ、もっとして」
「トウ」
「あ、それ、気持ち、ぃ、の……一誠、一誠っ」
「可愛い」
「ひゃア……あ、あっ」
「トウ」
一誠にこうして抱いてもらうまでは、ずっと思ってた。蜜香もこのポンコツな自分も、全部、はしたなくて大嫌いって、そう思ってたけれど。
「あ、もうっ……一誠、俺、ダメ」
「トウ」
「中、出して」
大好きな一誠が愛してくれるから、俺は――。
「一誠の、欲しい、よ」
「トウ」
「あ、あ、あ、あっ、ん、激しっ……あ、あっ」
俺はね。
「一誠、一誠、ア、イク、ンっ……ん、ぃ、クッ」
「トウ……」
「あ、ア、あああああああああっ」
「大好きだよ」
俺は、俺のこともセックスも、好きになったんだ。
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