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Allure 第6話

――なあ龍、お前に言ってないことがある。  俺のすべてを知りたいって、お前確かそんなことをほざいてたよな?  俺のことが好きだって、今もそんな戯言を言ってるよな?  例えすべてを知ったとしても、お前は同じ台詞を云ってくれるだろうか。  お前にすべてをさらけ出せない、  素直にその気持ちを受け入れられない、  その理由を話すことをためらうほどに、すっかりお前にのめり込んでる自分が怖えよ。  お前の言う通り、その例えようのない魅力に嵌っちまってる自分が怖い――  頭では突き放し、心が求めてやまないその腕の中にすっぽりと顔を埋めて、波濤は切なげに唇を噛み締めた。ほんの少しでも気をゆるめたならば、すぐにもにじみ出しそうな涙をグッと堪えて噛み締めた。 「龍……」 「ん、何だ?」 「(ねみ)ィ……このまんま寝ちまっても……い?」 (今夜は帰りたくないんだ。一人の部屋には……帰りたくない)  そんな思いを抱擁に代えるように、波濤は自ずから龍の首筋に両腕を回して抱き付いた。 「お前と一緒に……眠りたい……お前に……」  甘えていたい。こうしてずっと、いつまでも。  もしも叶うものならば、このまま時が止まってしまえばいいのに――!  まるでしがみ付くようにギュウギュウと抱き付いてくる波濤を抱き返しながら、龍の方はその髪に口付けた。 「もちろんだ。何ならずっとここで寝るか? 大歓迎だぜ?」 「バッカ……戯けたこと……言いやがって……」 「酷えな、俺は本気だぞ?」  とびきり甘やかな声音が感動とも欲情ともつかない不思議な感情を揺さぶるようだ。クスッと笑いながら頬擦りされた首筋に軽い髭の感触を覚えて、甘い疼きにギュッと心が震えた。  心地のよいこの時間がずっと続けばいい。  不思議な安堵感のある腕に抱き締められながら、しばしの安息を味わいたいというように、波濤はそっと眠りについた。  龍はその寝顔を見つめながら、やがて微かな寝息が聞こえてくるまでユルリユルリと髪を撫で続けていた。 ――なあ波濤、お前は何を怯えている?  何を隠している?  お前の心が既に俺にあることは訊かずとも分かる。  俺がお前を本気で好いていることも、お前はちゃんと理解できているはずだ。  なのにお前はその想いを遠ざけようと必死になっている。  何がお前にそうさせている?  何がお前の気持ちをせき止めているのか、  それは俺には言えないことなのか、  それとも、察してやれない俺が馬鹿なのか――  腕の中で静かに寝息を立てている愛しい男を見つめながら、龍もまた、切なげに瞳を細めた。  ふと、まぶしさに視線をやれば、窓の向こうに明けてくる空が一日の始まりを告げている。 「そういや……あの時もこんな夜明けの空を眺めていたんだったな――」  龍は波濤を起こさないようにそっと小声で呟いた。  『清々しくて自由で素晴らしい夜明けだろう? もしも羽が生えていたら、飛んでみたくなるような空だよね。僕にはね、どうしてもこの空を見せてあげたい奴がいるんだ』  幼い頃からの親友で、腐れ縁の悪友で――仕事に於いてもプライベートに於いても、かけがえのない友。  元伝説のホストと言われ、”帝”という異名を取ったほどの男――粟津帝斗からそう打ち明けられたのは、三月(みつき)ほど前の夏の朝のことだった。 - FIN -  次エピソード『Night Emperor』です。

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