6 / 128

Love too late:壊したくない距離感6

 桃瀬のアシストのお陰で編入二日目にして、クラスのヤツら全員と、仲良く打ち解けることが出来、まるで元から学園にいた錯覚をしてしまったくらいだ。  なので、みんなの誘いをむげに出来ず、普段運動なんてしないのに、クラス対抗のサッカーも、進んで参加してしまった。 「学園にいるヤツらって、本当にアクティブ……お陰で日頃の運動不足を思い知らされた」  能力別でクラスが分けられる個別指導塾で、机に突っ伏したまま、思わずグチってしまう。  既に身体のあちこちから、筋肉痛という名の悲鳴がしていて、どこかを動かすたびに呻きたくなる痛みがした。  そんな痛みだらけの俺の肩を、遠慮なくポンポンと叩くヤツ―― 「ヒッ!!」 「悪いっ、驚かせたか?」  筋肉痛のせいで痛みに引きつらせた俺の顔を、心配そうに覗き込む桃瀬がそこにいた。 「いや、そんなんじゃないんだけど。今日から、ここに通うことにしたんだ?」  痛みのない、首だけをゆっくり動かして桃瀬を見ると、少し困った顔して頷いた。 「そうなんだけどさ。やっぱ、知り合いがいるといないのとじゃ違うのな。この雰囲気に飲まれそうで、正直なトコ参っちまう」 「……もしかして、同じクラスなのか?」  能力別のこのクラスは、有名どころの大学を目指すべく、周りはとにかく必死こいて、黙々と勉強するヤツばかりだ。俺も最近レベルアップしたので、このクラスに入れたのに――  成績が落ちたから、塾に通うことにしたという桃瀬って一体、どんな成績してるんだ!? 「入る前に塾のテストしたら、ここのクラスに出るようにって言われた。そんでもって、これからやるっていう渡されたテキスト見て、すっげぇ驚愕だったんだけど。こんな難しい問題、いつもやってんの?」  ワケ分かんねぇと言いながらパラパラ、ページをめくっていく。 「桃瀬、お前って偏差値、どれくらいなんだ?」  正直、ショックだった。昨日今日と桃瀬の学校での様子を見ていたけれど、授業中は積極的に手を上げていたわけでもなく、いたって普通だったし、休み時間も昼休みも教科書を開いていなくて、勉強をしてる風に見えなかった。  帰宅して自宅では、本を読んでると言ってたし―― 「ん~? 覚えてない」  ――どうして、自分の偏差値を覚えていないんだよ!? 「な、んで?」 「何でって、そんなの生活に関係ないじゃん。覚える必要なくね?」  俺の質問に、何を言ってるだという表情を浮かべ、ワケ分かんねぇと呟きながら、小首を傾げる。 「参ったな、こりゃ……」  俺の中にある基準を、見事に崩された気がした。  桃瀬にとってくだらないことでも、俺にとってそれは大事なことで。俺がこだわっていたものって一体、何なんだろうか? 「周防?」 「容姿端麗で成績も優秀――なのに好きな相手は男子中学生って、お前ってホント、何なの?」  額に手を当て、じと目で桃瀬を見上げると、途端に頬をぽっと赤らめる。 「な、何を突然、言い出すかと思ったら……」  声を上ずらせながら、あたふたして落ち着きをなくした桃瀬に、ニッコリと微笑んでみせた。  そりゃそうだ、ぐさっと核心を突いてやったんだから。こうやって、いつも相手を蹴落としてきた、俺の戦略にのってもらおうか。ライバルは少ない方がいいに、越したことはない。 「昨日今日と、一緒に帰ってみて気がついたんだ。有名私立中学の制服着た、清楚な感じの男子のこと、さりげなく見つめてるだろお前……」 「いや、そんなの、ぐうぜ――」 「いいや、偶然じゃないね! 本を見る素振りして、じっと見つめていたから。俺はこの目で、何度も確認してるんだよ」 「っ!!」 「そんなヤツと一緒に勉強なんてしたら、悪いモノがうつってしまうかもな。ハッキリ言ってキモいよ、桃瀬」 「うっ……」  俺の言葉に、ぎゅっとテキストを胸に抱きしめてから、逃げるように教室を出て行く、涙目になっていた桃瀬。 (これでいいんだ。ライバルがひとり減ったじゃないか、喜ばないといけない)  そう思うのに――身体の痛みよりも心が痛むのは、どうしてだろうか? せっかく生まれた友情を、自らの手で踏み潰したせいかもしれない。あんなに、いいヤツだったのに……  そんな後悔の念がどんどん膨らんでいき、胸の中をじわりと侵食していったのだった。

ともだちにシェアしよう!