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Love too late:壊したくない距離感6
桃瀬のアシストのお陰で編入二日目にして、クラスのヤツら全員と、仲良く打ち解けることが出来、まるで元から学園にいた錯覚をしてしまったくらいだ。
なので、みんなの誘いをむげに出来ず、普段運動なんてしないのに、クラス対抗のサッカーも、進んで参加してしまった。
「学園にいるヤツらって、本当にアクティブ……お陰で日頃の運動不足を思い知らされた」
能力別でクラスが分けられる個別指導塾で、机に突っ伏したまま、思わずグチってしまう。
既に身体のあちこちから、筋肉痛という名の悲鳴がしていて、どこかを動かすたびに呻きたくなる痛みがした。
そんな痛みだらけの俺の肩を、遠慮なくポンポンと叩くヤツ――
「ヒッ!!」
「悪いっ、驚かせたか?」
筋肉痛のせいで痛みに引きつらせた俺の顔を、心配そうに覗き込む桃瀬がそこにいた。
「いや、そんなんじゃないんだけど。今日から、ここに通うことにしたんだ?」
痛みのない、首だけをゆっくり動かして桃瀬を見ると、少し困った顔して頷いた。
「そうなんだけどさ。やっぱ、知り合いがいるといないのとじゃ違うのな。この雰囲気に飲まれそうで、正直なトコ参っちまう」
「……もしかして、同じクラスなのか?」
能力別のこのクラスは、有名どころの大学を目指すべく、周りはとにかく必死こいて、黙々と勉強するヤツばかりだ。俺も最近レベルアップしたので、このクラスに入れたのに――
成績が落ちたから、塾に通うことにしたという桃瀬って一体、どんな成績してるんだ!?
「入る前に塾のテストしたら、ここのクラスに出るようにって言われた。そんでもって、これからやるっていう渡されたテキスト見て、すっげぇ驚愕だったんだけど。こんな難しい問題、いつもやってんの?」
ワケ分かんねぇと言いながらパラパラ、ページをめくっていく。
「桃瀬、お前って偏差値、どれくらいなんだ?」
正直、ショックだった。昨日今日と桃瀬の学校での様子を見ていたけれど、授業中は積極的に手を上げていたわけでもなく、いたって普通だったし、休み時間も昼休みも教科書を開いていなくて、勉強をしてる風に見えなかった。
帰宅して自宅では、本を読んでると言ってたし――
「ん~? 覚えてない」
――どうして、自分の偏差値を覚えていないんだよ!?
「な、んで?」
「何でって、そんなの生活に関係ないじゃん。覚える必要なくね?」
俺の質問に、何を言ってるだという表情を浮かべ、ワケ分かんねぇと呟きながら、小首を傾げる。
「参ったな、こりゃ……」
俺の中にある基準を、見事に崩された気がした。
桃瀬にとってくだらないことでも、俺にとってそれは大事なことで。俺がこだわっていたものって一体、何なんだろうか?
「周防?」
「容姿端麗で成績も優秀――なのに好きな相手は男子中学生って、お前ってホント、何なの?」
額に手を当て、じと目で桃瀬を見上げると、途端に頬をぽっと赤らめる。
「な、何を突然、言い出すかと思ったら……」
声を上ずらせながら、あたふたして落ち着きをなくした桃瀬に、ニッコリと微笑んでみせた。
そりゃそうだ、ぐさっと核心を突いてやったんだから。こうやって、いつも相手を蹴落としてきた、俺の戦略にのってもらおうか。ライバルは少ない方がいいに、越したことはない。
「昨日今日と、一緒に帰ってみて気がついたんだ。有名私立中学の制服着た、清楚な感じの男子のこと、さりげなく見つめてるだろお前……」
「いや、そんなの、ぐうぜ――」
「いいや、偶然じゃないね! 本を見る素振りして、じっと見つめていたから。俺はこの目で、何度も確認してるんだよ」
「っ!!」
「そんなヤツと一緒に勉強なんてしたら、悪いモノがうつってしまうかもな。ハッキリ言ってキモいよ、桃瀬」
「うっ……」
俺の言葉に、ぎゅっとテキストを胸に抱きしめてから、逃げるように教室を出て行く、涙目になっていた桃瀬。
(これでいいんだ。ライバルがひとり減ったじゃないか、喜ばないといけない)
そう思うのに――身体の痛みよりも心が痛むのは、どうしてだろうか? せっかく生まれた友情を、自らの手で踏み潰したせいかもしれない。あんなに、いいヤツだったのに……
そんな後悔の念がどんどん膨らんでいき、胸の中をじわりと侵食していったのだった。
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