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Love too late:壊したくない距離感6

***  桃瀬のアシストのおかげで編入二日目にして、クラスのヤツら全員と、仲良く打ち解けることができた。まるで元から、学園にいる錯覚をしてしまったくらい。  なので、みんなからの誘いを断れず、普段は進んで運動をしないのに、クラス対抗のサッカーも進んで参加してしまった。 「学園にいるヤツらって、本当にアクティブ……。日頃の運動不足を思い知らされた」  能力別でクラスが分けられる個別指導塾で、机に突っ伏したまま、思わずグチってしまう。すでに体のあちこちから、筋肉痛という名の悲鳴がしていて、どこかを動かすたびに呻きたくなる痛みがした。  そんな痛みだらけの俺の肩を、遠慮なくポンポンと叩くヤツ――。 「ヒッ!!」 「悪いっ、驚かせたか?」  筋肉痛のせいで痛みに顔を引きつらせた俺を、心配そうに覗き込む桃瀬がそこにいた。 「いや、そんなんじゃないんだけど。今日から、ここに通うことにしたんだ?」  痛みのない首だけをゆっくり動かして桃瀬を見ると、困った顔で頷いた。 「そうなんだけどさ。やっぱ、知り合いがいると安心できる。知り合いがいなかったら、この雰囲気に飲まれそうで、正直なトコ参っていたかもしれない」 「もしかして、俺と同じクラスなのか?」  能力別のこのクラスは、有名どころの大学を目指すべく、周りはとにかく必死こいて、黙々と勉強するヤツばかりだった。俺も最近レベルアップしたので、このクラスに入れたのに。 (成績が落ちたから、塾に通うことにしたという桃瀬って、いったいどんな成績なんだよ!?) 「ここで勉強する前に塾のテストを受けたら、ここのクラスに通うようにって言われた。そんでもって、これからやるって手渡されたテキストを見て、すっげぇ驚愕だったんだけど。こんな難しい問題、いつもやってんのか?」  桃瀬は俺の目の前で「ワケわかんねぇ」と言いながら、ページをめくっていく。 「桃瀬、おまえの偏差値、どれくらいなんだ?」  正直、ショックだった。昨日今日と桃瀬の様子を見ていたけれど、授業中は積極的に手をあげていたわけでもなく、いたって普通だったし、休み時間も昼休みも教科書を開いていなくて、勉強をしているようには見えなかった。帰宅してからは自宅で、本を読んでると言ってたし。 「偏差値? 覚えてないけど」 (どうして、自分の偏差値を覚えていないんだよ!?) 「な、んで?」 「なんでって、そんなの生活に関係ないじゃん。覚える必要なくね?」  俺の質問に、桃瀬はなにを言ってるだという表情を浮かべ、不思議そうに小首を傾げる。 「参ったな、こりゃ……」  俺の中にある基準を、見事に崩された気がした。桃瀬にとってはくだらないことでも、俺にとってそれは、大事なことだった。俺がこだわっていたものって、そんなにくだらないことだろうか? 「周防?」 「容姿端麗で成績も優秀。それなのに好きな相手は男子中学生って、おまえってホント、なんなの?」  額に手を当て、じと目で桃瀬を見上げると、途端に頬をぽっと赤らめる。 「な、なにを突然、言い出すかと思ったら」  声を震わせながら、あたふたして落ち着きをなくした桃瀬に、ニッコリとほほ笑んでみせた。 (そりゃそうだ、ぐさっと核心を突いてやったんだから。こうやって、いつも相手を蹴落としてきた、俺の戦略にのってもらおうか。ライバルは、少ないほうがいいに決まってる) 「昨日と今日、桃瀬と一緒に帰って気がついたんだ。有名私立中学の制服を着た清楚な感じの男子のこと、さりげなく見つめてるだろ」 「いや、そんなの、ぐうぜ――」 「いいや、偶然じゃないね! 本を見る素振りをして、じっと見つめてた。俺はこの目で、何度も確認してるんだよ」 「ううっ!!」  さらに顔を赤くした桃瀬は、ショックを受けた様相をありありと浮かべる。 「そんなヤツと一緒に勉強なんてしたら、悪いモノがうつってしまうかもな。ハッキリ言ってキモいよ、桃瀬」 「…………」  俺の言葉に、桃瀬はテキストを胸に抱きしめてから、逃げるように教室を出て行く。 (――これでいいんだ。ライバルがひとり減ったじゃないか、喜ばないといけない)  そう思うのに体の痛みよりも心が痛むのは、どうしてだろうか? せっかく生まれた友情を、みずからの手で潰したせいかもしれない。あんなに、いいヤツだったのに。  そんな後悔の念がどんどん膨らんでいき、胸の中をじわりと侵食していったのだった。

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