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Love too late:大切なぬくもり2

「うっ、ひっ……つらさを認めたら、楽になれるの?」  涼一くんは、泣きじゃくる俺を胸元に抱き直し、優しく背中を擦ってくれる。何度も何度も。 「楽にはならないけど、寄り添うことならできます。だけど、こんなことしかできなくて、ごめんなさい……」  あんなに酷いことを言ったのに、優しさで返す涼一くんのセリフは、困ってしまうほど居心地が良い。 「……っ、うっく……ごめんね、俺っ……」  太郎のこと、自分の気持ちのこと、今まであったこと全部、すべて喋ってしまいたいのに、涙が次々と溢れまくって、それをさせてくれない。  そんな俺を桃瀬はなにも言わず、ただ黙って見つめていた。 「――涼一くんの言うとおり、あんなヤツでもいなくなったら、寂しく思うものなんだね」  ひとしきり泣いて、落ち着いてから手で涙を拭って、やっと言葉を口にする。 「ずっと傍にいたなら、尚更じゃないでしょうか」 「アイツが勝手に、くっついていただけなのに。ウザイって、いつも思っていたのに……」  傍らに置いてあったティッシュの箱を引き寄せ、溢れてくる涙を拭ってから、やっと顔を上げた。  桃瀬と涼一くんが心配そうに俺を見ていて、無言でかけられる優しさのお蔭で、心にふんわりとした安心感が芽生える。 「……太郎が出て行ったのは、病気を治すためなんだ。ここでは治せない病を、アイツは抱えていたから」  安心したら、胸の中に抱えているもの全部を、吐き出したくなった。今まであった出来事を、ふたりはどんな顔して聞いてくれるだろうか。 「ふたりとも聞いてよ。アイツ酷いんだ。俺が病気を見つけて、他所で治療しろって言った俺に向かって、付き合ってくれたら治療してやるなんて交換条件を、偉そうな顔して、堂々と出しやがってさ」  呆れながら言い放つと、桃瀬が驚いた声をあげる。 「ちょっ、それって周防が付き合いを断り続けたら、病気が治らないじゃないか」 「そうだよ。治療しなかったらアイツ、死んじゃうのにね」 「それって太郎くんは命がけで、周防さんに迫ったってことになるんですね」  俺の言葉に、大きな目を更に見開いて、ビックリしたような声をあげる涼一くん。 「……そう、呆れるだろ?」  俺が肩を竦めると涼一くんは、ぶんぶん首を横に振る。 「呆れるよりも、すごいなって思いました」 「すごいって、どこがだ?」  桃瀬が涼一くんの横に座り込み、顔を見ながら訊ねると、うーんと唸りながら考え――。 「だってね、医者である周防さんに、そんな条件を出すなんて、断れないのが決まっているでしょ。絶対に付き合える確証があるから、そんな条件を太郎くんは、出したんだろうなって」 「確かに。周防の責任感や優しさを考慮したら、そうなるよな。だけど――」  なにかを言いかけて、口をつぐむ桃瀬。 「周防さんは医者としてじゃなく、ひとりの男として、太郎くんのことを助けたんですよね?」  横目で桃瀬を一瞬見てから、涼一くんはその意思を引き継ぐように、言葉にした。 「結果的には、そうなるかな。正直なことを言うと、全然タイプじゃなかったし、面倒くさいヤツだって思っていたのに、いつの間にか好きになってたみたい」 「周防……」 「喜ばなきゃいけないのにね。病気の治療をするんだから。なのにどうして、こんなにっ――」  ――胸が痛くて苦しい……。  ふたたび、涙がポロポロと止まることなく溢れてきて、頬をどんどん濡らしていく。  気づいたときには、いつも手遅れの恋ばかりしている自分。どんなに手を伸ばしても、相手には届かない。想いは胸の中で燻っているだけ。ジリジリと自分の心を焦がして、苦しさだけをひしひしと感じてしまう。 「いつもタイミングの悪い恋ばかりして、バカみたいだ……」 「手遅れなんかじゃないです。まだ、はじまってもいないじゃないですか!」  涙を拭い、自嘲気味に告げてみたら突然、涼一くんが怒った顔して声を荒げる。 「……涼一くん?」 「周防さん、太郎くんのことが好きなんでしょ? 簡単に諦めていいんですか?」 「だってアイツの本名も、なにもかも知らないことだらけなんだ。それに――」  仮に見つかったとして、俺が追いかけたら、なんだか逃げられる気がする。なにも残していかなかったのは、後腐れがないようにするためだったんじゃないかと、思ってしまったから。  だから素性を明かさず、俺を翻弄するだけ翻弄して弄んでから、はい、おしまいっていう。

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