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Love too late:大切なぬくもり3
***
桃瀬たちが帰って、一気に静かになったリビング。ひとりきりでいることを尚更実感してしまい、いても立ってもいられず、ぶらりと外に出た。
向かうアテなんてどこにもなかったけど、足は自然と高台の方に向かっていて――まるでそこに、太郎がいるんじゃないかと思ってしまったから。
昼間からのお酒の酔いは、すっかり醒めていた。気落ちしてしまった心の浮上までは、やっぱり難しくて、ぼんやりしながら、とぼとぼとゆっくり歩く。
高台への階段の道を一段一段踏みしめて、やっとたどり着いたらカップルが数組、所々に散らばっていた。
(――ひとりで来ているのは、俺だけだ……)
太郎とふたりで星を眺めた場所が運よく空いていたので、まっすぐそこに歩を進める。昨日よりも少しだけ膨らんだ三日月と一緒に、星がキラキラと瞬いていて、それを彩るように夜景が煌いていた。
「太郎……」
たった一日離れていただけなのに、こんなにも寂しくなるなんて。
『はじめは見た目が好みだったから、声をかけた』
というはじまりから――
『好きなんだよ。もうワケ分かんねぇくらいタケシ先生のことが、めちゃくちゃ好きなんだ!』
この短時間で、俺のどこを好きになってくれたのやら。
『好みのタイプじゃないなら、好みのタイプになるように洗脳してやる! そんでもって好きになるように、仕向けてやるから。絶対に、好きって言わせてみせるぞ。俺にとって、最期になるかもしれない恋なんだ。簡単に諦められるワケないだろ……』
どんなに断っても諦めずにしつこく、次から次へと胸クソ悪い甘い言葉を、アイツは懲りずに吐いてくれたよな。
『俺の定位置っていうか、居場所みたいな感じだから』
そう言って、俺のベッドに潜り込んだり。
『俺だけがこの姿を見られるのって、すっげー嬉しいんだ』
俺の寝起き姿を見て、いたずらっ子みたいな顔をしながら、嬉しそうに言ってくれたっけ。寝癖のついた頭に、不機嫌丸出しの姿のどこがいいのか、未だに全然理解出来なかった。
『そのまま接したらいいのに。笑ったタケシ先生の顔、結構可愛いんだから大丈夫だぜ』
病院で働く俺を見て告げた言葉だったが、太郎の前で笑ったことがなかったはずなのに、どうして可愛いなんて言ってくれたんだか。
『俺はタケシ先生のこと、すっげぇ好きだし。誰にも渡すつもりはないから』
あの桃瀬の前で堂々と臆することなく、言い放ってくれた台詞。正直すごいなって、感心したんだ。俺にはこんな告白、真似出来ないって思ったからなんだけど。
『タケシ先生の右側、好きだよ。だって泣きボクロがあるし、あとこのちょっとだけ癖のある襟足の髪の毛。タケシ先生考え込むとき、無意識にコレを直そうと、首に手を当ててるんだ。その仕草が結構、可愛くて好きなんだよね』
ふとこれを思い出し今、自分の手が首を撫でているのを、自覚させられてしまった。
「クセになっているのか、まったく――」
呆れ果てて言葉が続かない。太郎が傍にいたら間違いなくじっと見つめて、指摘するんだろうな。
『押しが強いのはタケシ先生だけ。初めてなんだよ、自分から迫ったのは。ウソじゃねぇよ。初めて自分の気持ちを伝えたとき、すっげぇドキドキしたしさ。タケシ先生に出逢って良かったって思う。こんな大変なこと知らないで俺は今まで、いろんなヤツの気持ちを弄んじゃったんだなって、すっげぇ後悔した』
今、お前は軽井沢の病院で、何を思って過ごしているんだろうか。
『好きだよ、タケシ先生。今日は、すっげぇ嬉しかった』
まぶたの裏に、笑顔の太郎が浮かんでくる。
『分かってるって。大事にしてあげる、俺の愛しい人――』
昨夜のこの時間、ふたりで肌を重ねた。はじめは貪るように俺を弄んだクセして、途中から壊れ物を扱うように、大事にしてくれた。
言葉通り大事にしてくれて、嬉しくて涙が出てしまい――はじめてがコイツで良かったって、心の底から思った。
頬を伝う一筋の涙が、崖から吹き抜ける風で一層冷たくなる。
太郎が傍にいれば、こんな冷たさを感じなくて済むのに。
月夜の煌きが、俺の心に深く影を差した。そんな夜空に手を伸ばしても、何も掴めないのが分かっているのに、お前を求めるようについ、手を伸ばしてしまう。
「今、何をしているんだろう? 俺みたく、寂しがっているのかな?」
そう訊ねてみても、返事があるはずもなくて。
静寂が寂しがりの俺を隠すように、優しくそっと闇に包み込んでくれた――その闇に包まれながら、ひとり静かに涙を流す。
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