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Love too late:募るキモチ2

*** 「王領寺、執事喫茶の宣伝があるんだから、絶対に顔を出せよな。もちろん、途中でいなくなるのも禁止だぞ」  帰ろうとしていた矢先に、突然同期から声をかけられ、わかったと言いながら頷いて、行きたくない合コンに顔を出す。  ――今日でちょうど一週間……。 「どうして、連絡を寄こさないんだ。タケシ先生」  そうボヤいたところで、自分のスマホを見ても、反応がないのは明らかなのに、見ずにはいられない。  宣伝を兼ねた合コンに、無理やり参加させられてる最中も、無駄なスマホの確認作業をしてしまった。 「ねぇねぇ王領寺くんって、あの高台にある、大きなお屋敷みたいなところに住んでる人だったりするの?」 「……ああ。そうだけど」  傍にいる女のコに聞かれ渋々答えると、周りから歓声があがった。 「うわぁ! ホントのお坊ちゃまだ、すごいすごい」 「あのぉ、執事みたいな人はいるんですか?」 「執事はいないけど、お手伝いさんは何人かいる」 (ウザったい、ひとりにしてほしいのに)  そんなことを考えながら、軽くため息をつく。それなのに自分の心情とは裏腹に、どんどん女のコに囲まれていった。人ごみに囲まれていると、なんだかタケシ先生との距離が、更に遠くに感じてしまう。  ――今頃タケシ先生は、なにをしてるんだろうな。  反応のないスマホを、右手でぎゅっと握りしめ、窓の外を見る。窓ガラスが泣いてるみたいな、激しい雨が降っていた。それはまるで、俺の心の中のよう。  意気消沈してる間に、合コンがお開きになり、店の外に出ると、さっきの女のコたちが困ったねぇと、口々に語り合っていた。 「あのさ、傘、持ってないの? これ、返さなくていいから使って」  すぐ横にいた、女のコに押し付けるように傘を手渡して、持っていたカバンを頭に掲げ、一目散に外へと駆け出す。向かう先は、タケシ先生のところ。もちろん、文句を言うため。もう辛抱ならねぇからな! ***  横なぶりの雨に打たれ、体は結構冷え切っているけど、心の中は別な意味でたぎっている俺は、静かにタケシ先生の家の玄関前に佇んだ。  ため息ひとつついてから、ゆっくりとインターフォンを押す。しばらくしたら、のん気な声が耳に届いた。 「お待たせしました~、どなた様ですか?」 (――多分この妙なテンションは、お酒が入ってるに違いない……) 「……俺」  タケシ先生のあまりな態度に、呆れ返ってやっと告げた言葉。らしくない俺の気配を察知したのか、慌てて扉を開けて目を見開き、すっげぇ驚いた顔をする。 「おまえっ、どうしてそんなに濡れてんだ!?」 「傘……途中で壊れた」  俺が濡れてることなんて、どうでもいいだろうよなんて、心の中でコッソリ毒づいて、変なウソをついてしまった。 「早く中に入れ。ちょっと待ってろ」  急いで病院からバスタオルをわざわざ持ってきて、ふんわりとしたそれを俺の頭に被せながら、濡れた体を丁寧に拭ってくれる。  その仕草から、俺のことを大事に思っているのが、伝わってきたんだけど。 「だいぶ体が冷え込んでるな、風邪を引くかもしれない。風呂を沸かしてやるから、さっさと入りなさい」 (体の冷えなんて、放っておいたら勝手にあったかくなるし、風呂なんかどうでもいい) 「……どうして、れ…な……っ…」  こみ上げてくるキモチが、言葉となって出てきた。それが聞こえなかったらしく、冷たい声で訊ねられる。 「悪い。もう一度言ってくれ」 「タケシ先生は一週間、俺から連絡なくて不安になったりしないの?」 「あ……それは――」  言いかけて飲み込む言葉――その先はいったい、なんだって言うんだよ。  俺の体を拭いてる手が止まり、妙な沈黙が続いた。きっとタケシ先生は俺が納得するようなことを、必死に考えているに違いない。 「……俺から連絡して、学祭の作業をしてるところに、水を差したくなかったから」  告げられた言いわけに、奥歯をぎゅっと噛みしめてしまった。 「そんなの、気にしなくていいのにさ。ずっと待ってたんだ、俺」 「ごめん……そこまで気が回らなくて」  タケシ先生の口から出てくる台詞が、俺の心にどんどんキズをつけていく。 「謝ってほしくて言ったんじゃない。だって、いつも俺からじゃないか。好きって言うのも、抱きしめるのもエッチするのも、なんでもかんでも、いつも俺からだろ。今まで付き合ったヤツにこんなふうに、放置されたことがなかったし、すっげぇ不安になったんだ」  どうでもいい存在じゃなければ、連絡くらいするだろうよ!  悔しくて堪らなくなり、タケシ先生の細い腕をぎゅっと掴んでしまった。その瞬間、頭を覆っていたバスタオルが肩に落ちる。動揺しまくりのタケシ先生の顔が、目の前にあった。 「タケシ先生は、大人だから寂しくないのかもしれないけど、俺はすっげぇ寂しかった。夢に見ちゃうくらい、すっげぇ逢いたくて声が聞きたくて……抱きしめたくて堪らなかった」 「それは俺だって、ホントは寂しかったさ」  口では、何とでも言えるだろ。取り繕うのがマジで上手だよな。 「それが伝わってこねぇんだよ、全然。俺がいなくても、平気ですっていうのだけが、ビンビン伝わってくるんだ。悲しいことに……だから一週間も放置できるんだろ」 「もう、落ち着けって。俺だって本当は連絡したかったよ。だけどな――」 「じゃあなんで、自分から好きって言ってくんないんだ? テレるような年でもないだろ」 「うっ……」  なんでこのタイミングで、照れるんだか。モジモジしてもここはハッキリ、自分のキモチを言うべきトコだろうが! 「……ほら、言ってくんないし。俺に対する愛情がないからだろ」 「ちょっと待て。心の準備が――」 「何が心の準備だ、大人のクセして情けねぇな。エッチだってしてるのに、それくらいどうして言えないんだっ」  きっと俺のこと好きじゃないから、平気でいられるんだ。俺だけがタケシ先生が好きで、熱を上げてるみたい――すっげぇ、惨めすぎるんだけど……。  イライラが頂点に達した俺は、タケシ先生の頭にバスタオルをグルグル巻きしてやり、飛び出すように家を出てしまった。  その後アプリのメッセージや電話が入ったけど、全部スルー。行き場のないキモチが、俺を混乱させる。

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