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Love too late:真実の愛2

***  ――個室でよかった。厄介なヤツが、面会に来てしまったから。 「先輩、良かったです。入院して手術なんて、大きな病気だって思っていましたから」  ベッドをリクライニングにし起きてる状態で対峙しながら、コッソリため息をついた。  タケシ先生に出逢う前、コイツに告白され、軽い気持ちでOKして、付き合う約束をしたのだけれど。一緒に帰る間際に、自然気胸の発作に突然襲われ倒れてしまったせいで、それきりになっていたから。 「学校で倒れたときは、世話になったな。ありがと……」 「こんな僕でよければ頼ってくれたら、すっごく嬉しいなって」 「そのことなんだけど悪いな俺、好きな人が出来た。だからお前とは、もう付き合えない」  テレながら喋る一年に、残酷な言葉を吐いてやる。 「え――? 今、何て……」 「すっげぇ好きな人が出来たんだ。ソイツしか見えないし、心から大事にしたいって思ってる」  俺がそう言ったら、膝に置いてた拳をぎゅっと握りしめた。 「僕も先輩のこと、同じくらい大事に想っています」 「どんなに想われても、迷惑なだけだから。悪いが諦めてくれ」  俺の言葉を聞き、辛そうな表情を浮かべながら、思いきった感じで口を開くしかない。 「……二番目じゃダメですか?」 (コイツ諦めが悪いな、どうしようか……)  いつもなら縋りつかれようが泣かれようが、犬を追い払うように、今までなら無下にあしらってきた。だけどタケシ先生に告白して諦めろと言われ続け、キズついたことで相手の痛みを自ら知ってしまったせいで、上手くあしらうことが出来ない。  ――なるべくなら、あまり深いキズをつけたくない。 「二番目で、お前は幸せなのか?」 「先輩の傍にいられるのなら」 「だけど心は、どうやったって手に入らないんだぞ。一番近くにいても、一番遠くにいるんだ」  ――タケシ先生がそうだったから。俺のほうを全然見てくれなくて、すっげえ辛かった。 「二番目なんかで満足するなよ。一番、自分のことを好きになってくれる相手、捜せよな」  諦めることは、容易じゃないって分かってる。だからこそ、背中を強く押してやらないと。 「先輩……」 「話は済んだ。悪いけど疲れたから出て行ってくれ。お見舞いは来なくていいから」  言いながら、ぷいっとそっぽを向いたら、椅子から立ち上がる音と鼻をすする音がした。 「うっ……失礼します……っ」 「――ごめんな」  呟いた言葉が届く前に、出て行ってしまった一年。そして立ち去ったばかりの扉から、軽やかにノックの音が病室内に響く。 「……はい」  ノックしたヤツが誰か分らないけど泣いてる一年と、間違いなくすれ違っているハズだ。何か言われるかも――  そんな重い気持ちで、扉を開けた人物に渋々目を向けると、そこにはやけに爽やかで、にこやかな顔したタケシ先生がいた。 「相変わらず、チャラ男やってんだな。早速病室に男を連れ込んで、あんな風に泣かせるとか」  どうして、ここにいるんだよ? 「やっぱ、すぐに手術したんだな。首の包帯、苦しくないか?」 (どうして笑っていられるんだよ? いつもならここは、不機嫌になってるトコだろ……)  呆然としてる俺の傍までやって来て、首に手を伸ばして、包帯にそっと触る。その手を迷うことなく、ぎゅっと握りしめてやった。タケシ先生のあたたかいぬくもりが、じわりと伝わってきて、俺の胸を熱くさせる。  久しぶりの再会をじーんと噛みしめていると、少し困った顔して、ふっと瞳を細めた。 「何て顔してるんだ、このバカ犬が! 出て行くならあんな絵を置いてくよりも、きちんと言葉にして、置手紙して出で行けって」  そんな俺の手をぎゅっと力を入れて、更に握り返してくれる。 「気に入らなかった?」 「いいや、嬉しかったよ。診察室の目のつくところに、きちんと飾っておいた」  相変わらず穏やかな口ぶりに、違和感しか感じられない。おかしいぞ、この態度。絶対におかしい――何でそんな優しい目をして、俺を見つめるんだよ。そんなことされると、タケシ先生が何を考えてるのか分からなくて、調子が狂ってしまう。 「あ、のさ……」 (しかも、どうやって俺のことを調べたんだろう?)  聞きたいことが頭の中を過ぎるけど、タケシ先生のにこやかな笑顔を見てるだけで、まるで氷が溶けていくみたいに、質問がなくなってしまうんだ。 「――悪い、ちょっとトイレに行って来る」  俺の手をやんわりと振り解き、足早に去って行く背中を、ただ見つめるしか出来なくて。 「タケシ先生……」  ――ずっと逢いたかった――  病院のベッドにひとりで寝てると、思い出してしまうんだ。すぐ傍にあった、愛おしい人のぬくもりを。  タケシ先生ってば、広いダブルベッドで寝ているのに、いつも隅近くでゴロンと横になっていて。空いてるスペースがまるで、俺の定位置みたいに、何故だか感じられたんだ。  背中をちょっとだけ丸めて眠る体に、そっと寄り添うことが出来るだけで、すっげぇ幸せだった。なのに今は――  ワザとにこやかな笑顔を作って、俺との距離をとってる感じがする。これならまだいつものように、ガツンと怒ってくれたほうが数倍マシだよ。 「マジでタイミング悪いったら、ありゃしねぇ……」  ベッドの中で、頭を抱えるしかない。他人行儀なタケシ先生の接し方が、全然分からなかった。 ※太郎に振られた後輩のお話を連載してます【男子高校生 西園寺 圭の真実の恋】 ここの本編では書かれていない、周防先生との直接対決がありますので、一緒に楽しんでいただけたら嬉しいです。

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