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Love too late:真実の愛3

 トイレに行くと言いながら病室を出て、すぐ傍にある談話室の椅子に、思わず座り込んでしまった。 「まったく太郎のヤツ……一体、何を考えてるんだ」  病室ですれ違った男のコは、明らかに高校生だって分かった。しかも泣いていたのだ、ただ事じゃないだろ。  驚きついでに不機嫌になれず、どうしていいかすっごく混乱した結果、にこやかに笑ってしまった自分。怒りなんて、一瞬で通り越してしまった。  談話室には、携帯使用許可のプレートが出ていたので、困り果てた俺は早速、桃瀬にメールする。 『ももちん、俺どうすればいい? 太郎の病室に行ったら、泣いてる男のコと出くわしちゃった。きっと病室に連れ込んでアイツは、いかがわしい事しようとしたんだよ』 (メール送信っと)  渋い顔して送信ボタンを押し、ちょっと待ったら桃瀬から返信があった。 『とにかくその彼について、きちんと事情を聞いてみろ。納得するまでお互いに、話し合ったらいいんじゃないか?』  おおっ、確かに――  冷静になりきれず、いきなり病気のことから聞いちゃったもんな。ここは落ち着いて桃瀬の言うとおり、納得するまで事情を根掘り葉掘りと聞いてやろうじゃないの。  さっきまでの重い気持ちはどこへ――桃瀬の的確な意見のお陰で足取りも軽くなり、太郎の病室に戻った。  ベッドの傍に置いてある椅子を引き寄せて、よいしょっと腰掛けてから太郎の顔を見る。相変わらずのサル顔はそのままに、以前よりも血色は良好、健康そうだな。 「さっき、出て行ったヤツ――」  いつも通りの口調で話し出した途端、太郎が慌てて弁解するように話し出した。 「タケシ先生、絶対にすごい誤解してるだろ。アイツは、ただの元彼っていうか……えっと告白されて軽い気持ちでOKしたんだけど、その後俺が自然気胸で倒れてから、音信不通になって。心配して、学校で入院先を聞いたらしくてさ。わざわざ見舞いに来てくれたんだ」  焦りながら喋った言葉を、頭の中で整理していく。ここは冷静になって、落ち着いて分析しなきゃ。 「元彼ね、へえ……」 「でも、ちゃんと断ったんだ」 「――押し倒したんじゃなく」 「ちげぇよ! そんなことするワケないだろっ。やっぱ誤解してる」  必死な太郎の形相が、俺の笑いを誘った。何でこんなに、一生懸命になってるんだ? (ああ、そうか。元彼と俺を二股かけていたのが、この機会でバレたから……) 「俺、タケシ先生と付き合うことにしたから、ケジメをつけるべく、ちゃんと断ったんだ。そしたら泣かれちゃって」 「……俺みたいな可愛げのない年上と付き合って、お前は後悔しないのか?」  吐き出すように低い声でやっと告げて、上半身をぐらつかせながら、ふらりと立ち上がる。 「――電話が入ったから、ちょっと出るわ」  太郎が何かを言う前に、ふらりと病室を出た。そして談話室に向かい、また桃瀬にメールをした。 『話し合いの結果、新たな事実発覚! 俺はどうやら、二股をかけられていたらしい』  メール送信っと。  力なく、そこにあった椅子に腰掛ける。  何だろ、この裏切られた感は。チャラ男の太郎を好きになったツケが、これなのか!?  せっかく―― 「桃瀬以外の人を好きになったというのに、落ち込むばかりの真実。これってホント、酷すぎやしないか?」  あまりの悔しさに、ぎゅっとスマホを握りしめたら、バイブが返信を知らせてくれた。 『実はお前のメール、涼一にも転送していて、意見を聞いていたんだ。なので涼一の文章、そのまま送るな。  二股かけられてたことは、過去の出来事として捉えてください。大切なのは、太郎くんの気持ちです。彼は今、誰が好きなんでしょうか? そこにたどり着くまでの、プロセスを思い出してください。  この文章を読んで、俺も考えた。命を賭けて、お前に迫った太郎だ。きっと、いい加減な気持ちじゃなかっただろう。そんなヤツだから、お前も好きになったんじゃないのか?』 「桃瀬……涼一くん、ありがと――」  ふたりからの心に沁みる、あたたかい応援メッセージに、胸がじんと熱くなった。まるで、たくさんの勇気を貰ったみたいだ。  そして二股かけられたショックで、すっかり忘れていた。太郎は最期の恋を、俺としたいって言ってたこと。  そのとき、左肩にそっと手が置かれる感触がして、顔だけで振り向くと、そこに太郎が立っているではないか。  俺と目が合うと、腕を掴んで引っ張るように、病室へと連れ戻された。 「本当は病気が治ってから、逢いに行こうと思ってた。タケシ先生の本心を聞くために」  掴んでる腕を使って自分の体に引き寄せ、ぎゅっと抱きしめてくれる。久しぶりの太郎のぬくもりに、不安だった心が簡単に落ち着いていくのが分かった。 「――俺の本心?」 「ああ。俺の病気を治すのに、あんなこと言ったんだろ? きっと無理させたんだろうなって思ったんだ」 「……無理なんか、してない――」  太郎の体に、そっと両腕を回す。 「お前の本当の名前を知ったとき、俺は思ったんだ。コイツと歩むために、出逢ったのかなって」 「何だよ、それ。タケシ先生に名前呼ばれると、何だか落ち着かない」  照れくさそうにしてるであろう、コイツの顔を見るために首を動かし、微笑みながらじっと見つめて、ボサボサしてる頭をぐちゃぐちゃと撫でてやった。 「(あゆむ)俺は、お前が好きだよ。最期の恋じゃなくて、俺との最後の恋にしてくれないか?」 「ヤベェ……そんな言葉、タケシ先生の口から直接聞けるなんて何だか夢、見てるみたいだ」 「夢じゃない、現実だ。バカ犬っ」  撫でてた手を頬に添えて、そっと口づけをしてやる。桃瀬と涼一くんのお陰で、素直に自分の気持ちを伝えることが出来た。 「早く病気を治して戻って来い。首を長くして、ずっと待っていてやるから」 「分かった、約束する! タケシ先生を最後の恋人にするために俺、絶対に頑張るから……」  見つめあい、そして――約束を守るように深い口づけを交わす。手遅れだと思った恋が、最後の恋になって想いが重なり合い、真実の愛になった。  俺たちは今、はじまったばかりの恋に揃って、身をゆだねる――

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