44 / 121

Love too late:真実の愛2

***  入院した部屋が個室でよかった。厄介なヤツが、面会に来てしまったから。 「先輩、良かったです。入院して手術なんて、大きな病気だと思っていましたから」  ベッドをリクライニングにした状態で対峙しながら、コッソリため息をついた。  タケシ先生に出逢う前、大学の後輩に告白され、軽い気持ちでOKして、付き合う約束をしたその当日。一緒に帰る間際に、自然気胸の発作に突然襲われ倒れてしまったせいで、それきりになっていた。 「大学で倒れたときは、世話になったな。ありがと……」 「こんな僕でよければ頼ってくれたら、すっごく嬉しいなって」 「そのことなんだけど悪いな。俺、好きな人ができた。だからおまえとは、もう付き合えない」  テレながら喋る後輩に、残酷な現実を突きつけた。 「え? 今、なんて……」 「すっげぇ好きな人ができたんだ。ソイツしか見えないし、心から大事にしたいって思ってる」  俺がそう言ったら、後輩は膝に置いてる拳をぎゅっと握りしめた。 「僕も先輩のこと、同じくらい大事に想っています」 「どんなに想われても、迷惑なだけだから。悪いが諦めてくれ」  俺の言葉を聞き、辛そうな表情を浮かべた後輩に対して、説得を試みる。 「……先輩の好きな人の二番目じゃ、ダメですか?」 (コイツ諦めが悪いな、どうしようか……)  いつもなら縋りつかれようが泣かれようが、今までなら無下にあしらってきた。だけどタケシ先生に告白して、大好きな人に諦めろと言われ続け、キズついたことで相手の痛みをみずから知ってしまったせいで、うまくあしらうことができない。  ――なるべくなら、あまり深いキズをつけたくない。 「二番目で、おまえは幸せなのか?」 「先輩の傍にいられるのなら」 「だけど心は、どうやったって手に入らない。一番近くにいても、一番遠くにいることになるんだ」  ――タケシ先生がそうだったから。俺のほうを全然見てくれなくて、すっげえ辛かった。 「おまえさ、二番目なんかで満足するなよ。一番、自分のことを好きになってくれる相手を捜せよな」  諦めることは、容易じゃないってわかってる。だからこそ、後輩の背中を強く押してやらないと。 「先輩……」 「話は済んだ。悪いけど、疲れたから出て行ってくれ。お見舞いは来なくていい」  言いながら、ぷいっとそっぽを向いたら、椅子から立ち上がる音と、鼻をすする音がした。 「うっ……失礼します……っ」 「――ごめんな」  呟いた言葉が届く前に、出て行ってしまった後輩。そして立ち去ったばかりの扉から、軽やかにノックの音が病室内に響く。 「……はい」  ノックしたヤツが誰かわからないけど、間違いなく泣いてる後輩とすれ違っているハズ。なにか言われるかもな。  そんな重い気持ちで、扉を開けた人物に渋々目を向けると、そこにはやけに爽やかで、にこやかな顔をしたタケシ先生がいた。

ともだちにシェアしよう!