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Love too late:すれ違う想い3

***  喜多川から貰った食券を使って、あちこちにある屋台から、たくさん食べ物を買い漁り、制服に着替えて一目散に、周防小児科医院に向けて走った。  俺が一方的に怒鳴りつけてしまった前回と今回の再会は、マジで最悪としか表現出来なくて、何とかして穴埋めをしなきゃならねぇとキモチが焦るのに。  病院に近づくにつれ、じわじわっと得も言われぬモノが、胸の中を支配していった。 (――言っちゃいけないことを言って、またキズつけてしまうかもしれない……)  急ぎ足がだんだんと歩幅が小さくなって、最終的にはトボトボといった感じの歩き方になってしまう。 「……タケシ先生、今どんなキモチでいるんだろ」  たかが一週間、連絡がなかっただけで不安に苛まれて、八つ当たりしてしまった俺なんか、心底嫌いになったかもしれない。 「別れたいって言われたら、どうしよう……」  この言葉は、いつも自分が使っていたもので、相手から言われたことなどなかった。故にどうしていいか、マジで分かんねぇ―― 重い足を引きずりながら病院に辿りつき、外から家の様子を窺ってみると、窓の明かりが点いていなかった。 「もしかして、帰ってきてないのか……?」  俺が来ると予想して、わざと自宅に戻っていない可能性もある。 『相手にその真面目さがきちんと伝わっていたら、信頼されてるかもよ? それこそバカ犬って呼んでる、お前の帰巣本能を試してるのかもしれないね』  不意に喜多川が言った言葉が、頭の中に流れてきた。 タケシ先生が行きそうな場所……俺だけが分かるところに、あの人は絶対にいるはずなんだ。だって――  目をつぶると線の細い背中が、まぶたの裏に映し出された。その背中からは明らかに、寂しいという感情がにじみ出ている。  だから俺は、迷うことなく後ろから抱きついて、寂しくないよ、俺が傍にいるからっていうキモチを込めて、ぎゅっと抱きしめてあげるんだ。  今もきっと、どこかでその想いと闘っているに違いない。早く駆けつけてあげて、安心させてあげなければ。 (バカ犬の帰巣本能、ここぞとばかりに使ってやろうじゃん!)  タケシ先生のことを考えたら、さっきまで抱えていた自分の不安が、あっという間に消え去って、代わりに燃え盛るメラメラしたものが、ぶわっと体を包み込む。 「タケシ先生……どこにいるんだ?」  夜空に浮かぶ白っぽい半月に問いかけたら、傍にある雲が風で流されて、その月を覆い隠した。暗い闇が俺を包んだ瞬間、頭の中にきらっと閃光が瞬く。 「寂しがりのタケシ先生の居場所、きっとあそこに違いない!」  来た道を戻りながら、急いでその場所に向かった。  俺のことをきっと待っているはずだと、自分に言い聞かせながら、タケシ先生のもとへ、命がけで走りまる――

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