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告白のとき5

 ……ああ、もう――どうにでもしてくれ……  快感に打ちひしがれる体を存分に持て余し、歩にされるがままだった俺。行為に汗ばんだ肌を何とかしたかったのだけれど、それすらも億劫というか、残されたこの気持ちよさを、もっと噛み締めていたいというか。  微妙な表情を浮かべ、うつ伏せのまま横たわる俺に、暑苦しいくらいにピッタリと寄り添う歩がいた。 「ねぇねぇ気持ちよかった? タケシ先生ぃ」 「煩いな……放っておいてくれ、バカ犬」 「うぇっ、もしかして気持ちよくなかったとか!? じゃあもう一回♪」  ――冗談じゃない! 「これ以上、余計なことをするんじゃない。俺を悶え殺す気か、お前はっ!」  慌てて起き上がり、ベッドの隅っこに移動。そんな俺の様子を楽しそうに肘を突いて、じっと見つめたままでいる。 「そっか。身悶えちゃうほど良かったんだ。なぁんだ」  告げられた言葉に、頬がじわりと熱を持つ――だってしょうがないんだ。久しぶりだったんだし…… 「あ――」  そうだよ、久しぶりだったんだ―― 「タケシ先生?」  コイツが逢いに来ないことに若干腹を立てつつも、寂しくて堪らなくて。だけど実際に顔を突き合わせたら、島に行く具体的な話をしなきゃならないだろうなと、アレコレ考えさせられたせいで、不安がどんどん募っていった。  そんな寂しさと不安を抱えたままの俺は、行きつけのブランドショップで買い物をした。  そのことを思いだしたので、無言でベッドヘッドのライトを付け、ゆっくりと立ち上がり、クローゼットまで足を運ぶ。仕舞ってあった、まっ平らで正方形の小さな小箱を手に、歩の傍に戻った。  慌てて布団をかき集めて体を見えないようにしてから、手にしていた箱を強引に手渡す。 「タケシ先生、突然どうしたんだよ?」 「別に……それ、お前にやる」  顔を逸らしながら告げた言葉に、歩は小首を傾げながら包装紙をバリバリ剥がして、急いで箱を開けた。 「これって一緒に買い物に行ったとき、タケシ先生にすっげぇ似合いそうだなって、眺めていたヤツだ」 「俺は、歩に似合いそうだなと思ったけど」  箱の中身は、南京錠付きの本皮でできたチョーカー。色は黒っぽいんだけど、よく見たら深い青色をしている。そんな色身をしたチョーカーに、シルバーの南京錠がキラリと光って目についたんだ。 「似合いそうだからって、俺にこれを?」 「付けてやるよ。それ寄越しな」  疑問に答えずに右手を出したら、少し困った顔でチョーカーを置いた。歩の首に手を回して引き寄せるその体勢に、自分からキスをしているような錯覚を覚え、ちょっとだけドキドキしてしまう。 「やっぱり……すごく似合ってるよ歩」 (南京錠でしっかりと封印された様は、俺だけのモノって感じだ) 「タケシ先生――?」  不意に目頭が熱くなり、見られないように横を向きながら、慌てて右手で隠した。  こんな物がなくても歩は俺を好きでいてくれて、ずっと傍にいる存在だって頭では分かっている。それなのにちょっとした不安材料があるだけで、グラグラと無駄に揺れ動き、不安定になる自分の心にほとほと嫌気がさしてしまう。見える形にすがって、バカみたいじゃないか――  肩をヒクつかせて固まる俺に、 「ねぇタケシ先生、後ろを向いてみて」  優しく声をかけてきたので、抗うことなくそれに従ってやる。 「じっとしててね」  わくわくしたような嬉しげな声色が俺の中に響いて、泣き出しそうな気持ちを止めてくれたのだけれど。 「あ――」 「箱の中にこれが残っていたからさ。これはタケシ先生専用なんでしょ?」  それは南京錠の鍵の部分。シルバーのネックレスがついている物だった。 「またタケシ先生とお揃いのものが増えたね。すっげぇ嬉しいよ」  後ろから体を抱き締めながら、頬をすりすりと擦りつけてくる。 「どんなものでもいい。タケシ先生が俺のことを想ってくれる、いろんな形が見られるのを感じられることができて、それが俺の幸せに繋がっていくんだ」 「歩……お前は窮屈じゃないのか? 嫌になったりしないのか?」 「ははっ、そんなこと思ったりしねぇって。むしろ逆だよ。今回の島に行くことも、このチョーカーも」  左手で俺の顎を掴み、歩の方に向けさせると、ちゅっと優しいキスをしてくれた。 「……嫌になって、しばらく顔を見せないんだと思ってた」  不安に思っていたことを恐るおそる口にしてみると、ゴメンと一言謝ってから。 「ちょっとだけ、冷静になって考えてみたかったんだ。どうしたら少しでも、俺たちの関係を認めてもらえるかなって」 「そんなの……お前が考えても」 「分かってるって。でも恋人としては考えちゃうネタだろ? だから調べてみた。タケシ先生のご両親が、どんなところに住んでいるのか。調べてみて分かったよ、すっげぇいいところなんだって。さすがはタケシ先生の親って感じ」  俺よりもコイツはすごい――自分のことばかり考えてる俺と違って、どうやって対処しようか、一生懸命に考えているのを尊敬しなければならないな。 「タケシ先生ってば離れてる間、すっげぇ不安だったんだろ? 俺に遠慮せず、連絡くれたらよかったのに」  何やってんだよとくすくす笑って、優しく後頭部を撫でてくれた。 「だってお前の自由を、俺のワガママで奪いたくないし」 「全然分かってないな。そのワガママで俺のことを、縛りつけて欲しいんだってば」 「んぅっ!?」  後頭部に回していた手が歩に向かって強引に押されて、唇をぎゅっと押し付けるような、荒々しいキスをされて―― 「ね、このチョーカーみたいに目に見える形で俺のことを、もっともっと縛りつけてよタケシ先生」  ひとしきりキスをされた後に、告げられた言葉が俺の心に火をつけた。迷うことなく歩の体に腕を絡めて、ぎゅっと抱きしめてやる。 「ウザいって言っても、離れてやらないから」 「そんなこと思わないって。遠慮せずに縛りつけてよ」  了承の意味を込めて、俺からキスをしてあげた。奪うようなそれに応えてくれる歩が、更に愛おしくなり。  そのまま互いの肌を重ねたのは、必然的なことだった――

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