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伝えたい想い~一緒に島へ~(歩目線)2
ああ、身の置き場がねぇよ・・・・・
夏だけど夕方から、島の温度が一気に下がるとタケシ先生に聞いていたので、持ってきていた長袖のシャツを着て、リビングのソファの隅っこに座っていたら、お母さんがわざわざ、あったかいお茶を出してくれた。
「あ、有難うございますっ」
「いいのよ。お代わり、遠慮なく言ってちょうだいね」
ふわりと微笑んで、持っていたお盆を抱きしめながら、そそくさとキッチンに消えてしまう背中に聞こえるような、大きな咳払いをしたお父さん。
「あら、お父さん。何か?」
「俺にも茶をくれ」
「アナタ暇でしょ。ご自分で煎れて下さい」
「な、何っ!?」
「晩ご飯の支度で忙しいのよ」
「あのっ、良ければ俺のお茶どうぞ! それと晩ご飯の支度、お手伝いしますけどっ」
目の前のソファに座るお父さんに、ずいっとお茶を差し出しながら、慌てて立ち上がり、腕まくりすべく袖に手をかけた。
「ふんっ、客のお茶に手をつけるワケなかろう!」
「そうよ。王領寺くんはお客様なんだから、ゆっくりしなきゃダメ!」
お母さんが戻って来て、俺の両肩に手を置き、無理矢理ソファに戻してくれる始末。しかもテーブルの上には、お父さんに渡したお茶が、しっかりと返却されていた。
わいわい楽しそうに? 何かを言い合いながらキッチンに消えていく、ご両親の姿を見つつ、コッソリため息をつく。
何かしたくても何も出来ないとか、手持ち無沙汰にも、程があるっちゅーの!
どうしたもんかなぁと、淹れてくれたお茶に手を伸ばしかけた瞬間、テーブルに置いてあったスマホが、軽やかなメロディを奏でる。
この着信音は、タケシ先生からだ! んもぅ、天の助けとしか思えねぇよ(涙)
「もっ、もしもし!」
『出るの、早っ。どうしたんだよ』
「そっちこそ、電話してくるの早いじゃん。患者さん、大丈夫なのかよ?」
苦笑いしながら喋る、タケシ先生の声に、つい文句を言ってしまった。
『俺の役目は、無事に病院に送り届けるだけだからな。あとは現場にいる、医療スタッフがみんなやってくれるし。親父、そこにいるだろ?』
その言葉に、キッチンに行ったお父さんを呼ぼうとしたら、いつの間にか目の前のソファに座っているだけじゃなく、恨めしそうに俺のことを、じぃっと見つめていて――
「ひっ!?」
『歩?』
「あっと、い、その……スピーカーにするわ」
スマホを手渡す勇気がなくて、(それくらい怖い顔をしていた)スピーカーの表示をぽちっと押し、水戸黄門の印籠ヨロシク、お父さんにかざしてみた。
『親父、聞こえる?』
「ああ……。どうして俺に、一番に電話してこなかったんだ。島の診療医として、携わっている身なんだぞ」
『どうせ歩のことが気になって、べったり引っ付いているだろうと思ったから、あえて電話しなかっただけ。俺の予想通りの展開みたいで、すっごく笑えるんだけど』
「こんなの、気にしてるわけなかろう! それよりも、康弘くんの容態はどうなんだ?」
・・・・・Σ( ̄⊥ ̄lll)こんなの呼ばわりって、何気に酷くない!?
『こっちの医療スタッフの中に、研修医時代にお世話になった先輩がいてさ。まぁ、そうだな。最悪の事態に陥ったとしても、ぜーったいに大丈夫だと変な確信したわ』
……なんだろ、タケシ先生の言葉が、妙に引っかかる感じがするのは? 仕事の話をしているのに、おどけた風に言ってるからか? というよりもお父さんに向かって、俺たちの関係を言ったときのようなテンションに近いかも。
「研修医時代に、お世話になったって……もしかして、お前の担当していた御堂くんか?」
お父さんが、その人の名前を口にしたとき、眉根を寄せて言ったので、きっとあまり、スキじゃないのかもしれないと、勝手に思ってしまった。
『ピンポーン♪ だから安心して任せられるわけ。検査の方も、さっき画像見せてもらったんだけど、脳に異常がなかったし、あとは目が覚めるのを待つだけになってる』
「そうか、それは良かった」
『明日の最終便のフェリーに乗って、そっちに帰るから。お袋に伝えておいて』
「……そのまま地元に、帰ればいいんじゃないのか?」
『大事な恋人を置き去りにしたまま、帰れるワケないでしょ。歩、待ってろよ! じゃあね』
その声を最後に、通話が勝手に終えられてしまった。俺、喋ったの一瞬だけじゃん(涙)
掲げていたスマホを、静かにテーブルの上に置く。
だけど最後の言葉、何気に嬉しかったりして。大事な恋人って。
(ここの部分、エンドレスリピート決定!)
それを言われただけでも、救いがあるっていうか。
「おいおい、だらしない顔を晒すな。みっともない」
まるで、タケシ先生が言いそうなセリフを、お父さんが呆れながら吐き捨てる。思わず顔を、両手で触ってしまった。
「す、スミマセン……あのぅ御堂さんって、すごい人なんですか?」
タケシ先生が研修医をしていたときの、担当だったという先生。
「まぁな。医者としては優秀だが、人としては最低な男だ」
不機嫌を露わにしながら、お茶をすするお父さんの顔は、まるでタケシ先生が怒ってるときみたいな表情に見えた。
「そっか。そんな優秀な人に教えてもらったから、タケシ先生も優秀なんだ」
俺みたいなバカと違って、もともと優秀なんだろうけど。
「……って、あれ? 人として最低な男なのに、小児科医をしているのか!?」
「産婦人科医じゃなくて、何よりだと思うよ。ナニを突っ込まれるか、分かったもんじゃない」
「は――!?」
きょとんとした俺にチッと舌打ちして、すっげぇ忌々しそうな顔をする。
「御堂くんの下半身の節操のなさは、小児科医仲間で有名な話さ。優秀なのに、あちこちの病院で問題起こして、ジプシーしているんだ」
「それって……タケシ先生が危ないじゃんか!」
身を乗り出して、お父さんに訴えたのだが――
「何をとち狂っているのやら。武は男だぞ、襲われるわけがなかろう」
分かってない……下半身に節操のないヤツと言われた過去をもつ、俺だからこそ、それが分かってしまうんだ。
研修医時代よりも間違いなく、今のほうがタケシ先生の色気が、ぐぅんとあがっているハズ。それを、みすみす見逃すとは思えない――
「絶対にヤバイっす……狙われるって。だってタケシ先生ってば、すっげぇキモチいいんだもん」
「は――!?」
「言葉で表現できないくらい、そりゃあもう……」
タケシ先生の危機で頭がいっぱいになり、思わず言ってはいけないことをペラペラと、お父さんに喋ってしまった。
Σ( ̄⊥ ̄lll)ヤベェ
つか、タケシ先生のカミングアウトより、俺の発言のほうがアウトな気がする……
「そりゃあ、もう、どうなんだね?」
そして何故に、突っ込んでくるんだお父さん。
「……スミマセンでした。失言しまくってしまって」
唇を噛みしめて、きっちりと頭を下げるしかない。
この件について、間違いなくあとからタケシ先生に、お説教を食らうだろう。
さっと頭を上げ、テーブルに置いてあるスマホを手に取り、タケシ先生に素早くコールした。
コールした理由は勿論、御堂ってヤツに気をつけてほしかったから。
しかし無情にも電話は繋がらず、ハニワ顔した俺と呆れ返ったお父さんが、俺の行動を見て、またしてもチッと舌打ちした。
しかもその後、一切会話がなく、ただ見つめ合うしか出来なかったのである。――これ以上の失言を、何としても防がなければならないし。
タケシ先生、大丈夫なのかな。すげぇ心配だ。
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