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第2話
そこらじゅうに蔓延するβは、Ωの時とは違い就職難になることは比較的少ない。
全人口の七割も占めているβを蔑ろに経済は回っていかない。それでも目障りな存在だから、邪険にすることはできず、後ろ指を指すだけなのだ。
恭也が就職すると、それは如実に現れ始めた。
オフィス内では番同士がパートナーとなって、仕事に取り組んでいる。
一人で仕事をしているのは大概βだ。
疎外感を感じずにはいられないような異様な仕事環境の中、恭也は一人でも効率よく仕事ができれば、それでいいじゃないか、そんな持論をもっていた。
自分のためにコーヒーを買いに行き、自分のために仕事をし、自分のために自分を好きでいる。
こんな持論、番たちに対する僻みにも似た反発以外の何物でもなかった。
会議で使う書類を作成していると、「そこ、タイピングミスってるんしゃない?」との指摘があった。
振り返ると小さな背丈を十分に活かした栗色の癖っ毛に、アーモンド型の瞳をした凛だった。
恭也は疎ましく思いながら、軽く礼を言うとそれからまた、作成に集中する。
ここで会話を遮断させるためだ。
「なに、ツンケンしてるのさ~、僕が幸せ者になって、恭也だけが独り身だからって~」
「別に、集中できないから、去ってくれるとありがたい」
独り身を強調してクスクスと笑う凛を無視して、パソコンと向き合う。
凛は恭也の同僚であり、幼馴染でもあった。
この二人は昔からこう仲が悪いわけではなかった。
「まだそこにいるのか」
「なに、そんなに僕が目障りなの」
「・・・・・・」
無言になるしか、凛を退散させる方法が分からない。
目障りといえば目障りだが、なんの邪魔もされてない恭也は、強く前に出られない。
沈黙を決め込んで作業していると、溜息をひとつこぼしてパートナーのところへ行ってしまった。
人の気配がようやく消えたところで、恭也も今日一日で何回目か分からない深い息をデスクに落とした。
憂鬱なのだ、幼馴染に侮辱されているような気さえする、自分の社会的地位に自分が振り回されるのが。
離れていった凛の後ろ姿を見て、心が沈む。
どうして、いつも話しかけに来ては幸せだと惚気に来て、相手にされないこともわかっているくせに、毎日嫌味も見舞いのごとく持って来る。
いつからだろう、こんな関係になったのは。
なぜなのだろう、いがみ合っても尚、二人が一緒に居続けるのは。
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