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第11話

「可愛いね、千裕は。もうイキそう?」 中断させたはずの情事は倍の密度を持って再開されて、智紀さんの言葉通り俺は早々と限界を感じていた。 だけど、やっぱり怖い。 不安、で―――。 「イキなよ。見ててやるから。心配しなくても俺がいま見て、抱いてるのはお前だけなんだから。ね、ちーくん?」 甘すぎる声はからかいを含んでいて。 なのに絡んだ視線、その眼差しは食いつくされそうなほどの色欲に濡れている。 「なんにも考えずに、俺に食われな、千裕」 キツク射精を促すように摩擦され、耳孔を犯されながら―――堪らず俺は白濁を吐き出した。 粘着質な白濁が素肌に飛び散ってくる。 どろりとした感触が肌を伝い、その生温さに正気に戻されかけた。 だけどそれさえも許されないように口を塞がれ舌を吸い上げられて思考が焼き切れそうになる。 智紀さんの腕を握り締めると、唇が離れていった。 射精したことと、直後の激しいキスで羞恥心にかられる暇もなくただ荒い息を吐きだすことしかできない。 智紀さんの手が俺の手を掴んで下させる。 そして今度はゆっくりと肌蹴たバスローブを脱がせていった。 前だけでなく全身が空気にさらされ、はっと我に返って顔が熱くなる。 とん、と胸のあたりを押されベッドに倒された。 されるままの自分に当惑するけど、言葉がでてこなくて逃げるように視線をそらせた。 腹部に指がふれてきてぴくりと反応してしまう俺の身体。 こんなにこれまで敏感だったことがあったか? ちらりと視線をずらすと智紀さんは俺の腹部を汚す白濁を指先ですこしすくいあげて―――ぺろりと舐めた。 思わず逸らしたのにまた智紀さんを見上げてしまう。 口角をゆっくりあげた智紀さんは目細めて首を傾げながら。 「気持ちよかった?」 と、問いかけてくる。 「まぁ、イったし、気持ちよかったよね」 だけど俺の答えを待たずにそう続けた。 「じゃあ、もっと気持ちよくなろうか? 俺も一緒に、ね?」 一旦は中断させようとしたはずなのに、あっというまにまた智紀さんのペースに巻き込まれてあっというまに、吐精させられてしまった。 そしていまから―――。 これからのことを考えて無意識に大きく唾を飲み込んでしまう。 その音がこの静かな部屋の中で響いたんじゃないかって心配になってると、智紀さんがきていたバスローブを脱いだ。 さっき一緒に風呂にはいったんだし、裸をみたのはいまがはじめてじゃないのに。 ほのぐらい照明のせいか、密室のなかで性交の匂いが充満しているせいか、引き締まった身体に釘づけになってしまう。 べつに、俺がとくに貧弱っていうわけでもないはず。 だけどやっぱり完成された大人の身体は息を飲むほどの色に濡れていて、動くことができなかった。 半ば呆然とベッドに転がる俺とは正反対に余裕なままの智紀さんはベッドサイドへと手を伸ばしてチューブをとった。 なんだろう、と見る俺にすぐに智紀さんが答える。 「ジェル。まぁローションだよ。アナル用の」 「っ」 直接的な言葉と、いまからする行為のためのジェルを見せられて身体が強張った。 それに気づいたはずなのに、素知らぬ顔で智紀さんが俺の脚を抱え上げて性器だけでなく、後孔も全部さらされて、激しい羞恥に頭が真っ白になる。 腰を智紀さんの膝の上にのせられ脚を大きく開かれた、そんなありえない格好。 「そんな緊張しないで大丈夫だって。ちゃんとよくしてあげるから」 ふっと笑った智紀さんはチューブのキャップをはずすと、とろりとしたものを掌に落とす。 俺は智紀さんの一挙一動に目が離せず、だけど凍りついたように動けないまま。 そしてジェルで濡れた指がゆっくりと後孔に触れてきて―――反射的に逃げようとしてしまった。 だけど容易くその動きは封じられる。 「千裕」 声と、俺の腰を掴む手。 「三度目はないよ」 目が合い、くすりと笑う智紀さんに頭が真っ白になる。 三度目―――。 一度目はジャグジーで逃げて、二度目さっきこの手から逃れようとした。 さんざん快楽におぼれて土壇場で逃げようとする俺を笑ったまま智紀さんは見据えて後孔に触れてきた。 冷たくぬるりとした液体と指が窄まりにほんの少しはいってくる。 「ッ……!」 身体が強張る。 本当に爪の先が少しくらいうまっただけなのに圧迫感と違和感が激しく、押しだそうと力が入るのを感じた。 「ちーくん、力抜いて」 「……ぅあ」 言われたとおりにしようとする。 けど、できない。 固く閉じて、侵入を許さない、許すことができないように力を込めてしまう。 「しょうがないなぁ」 苦笑する智紀さんが後孔から指を離した。 無意識に安堵に弛緩する身体。 だけどすぐに俺の身体は反転させられ腰を持ち上げられた。 「智紀さん……っ、あ」 背中にのしかかる重み。と、同時に腕がまわされ、委縮し萎えた俺のモノが握られる。 強めに扱かれて硬さを取り戻していく。 背中へと唇が落とされ背筋に這う舌にまた熱がくすぶりだす。 さっき吐精したばかりなのに巧みに強弱をつけながら扱いてくる指に荒い息と先走りがこぼれてしまっていた。 「……ッん、は……ン、ンッ!!」 前を弄られながら背中に舌が這ったまま、不意に後孔に指が触れてきた。 びくり、とした瞬間、俺のモノを握る手に力が込められ微かな痛みに眉を寄せ、そして次の瞬間後孔に指先が挿入された。 逃げる間もなく、そっとだけどぐっと指先がうまる。 「智紀さ、んっ……無理です……っ」 気持ち悪い、痛い。 頭を埋め尽くすのは拒絶だけで、三度目はないと言われたのに逃げようとしてしまう。 だけど今度は止められることなく肉壁をほぐすようにしながらゆっくりゆっくりと指は後孔を侵していく。 その間も俺のモノは扱かれ続けていて鈍痛と違和感のはざまで快感を呼び起こす。 ぐちゅりと鳴る水音は前からなのか後からのものなのか。 「……っ、智紀さん……っ」 不安と恐怖に肩越しに振り返る。 俺の背中に顔をうめてるから見えなかったけど、すぐに顔をあげて笑いかけてきた。 「なに?」 「っ、俺……、もう」 無理です。 なんていうのは情けないだろう。 そうわかっていても初めて経験する後孔への侵入は嫌悪感しかわかない。 首を力なく横に振る俺に智紀さんが顔を近づけてきた。 唇が重なり、苦しい態勢で舌がはいりこんで引っ張るように絡みついてくる。 後孔に入った一本の指は途中で動きを止め、それ以外はひたすら快感をおくるように動いている。 舌を吸われ食むように噛みつかれ息もままならない。 苦しい、のに、気持ちよさはあるから逃げられない。 「……は……っ…ぁ」 「千裕。痛いのは最初だけ。たくさん気持ちよくしてあげるからいまは我慢するんだよ」 「っ……ぁ……ぁ」 最後までシようね、とあやすような声はやっぱり多分に笑いを含んでいて俺の意志は汲んでもらえない。 「大丈夫。俺を信じて」 と、続いた声は―――少し優しかった。 そして埋まったまま動きを止めていた指が前と連動するように静かに抜き差しを始めた。 変わらない違和と圧迫感。 前を扱かれてるから多少軽減されるが、それでもやっぱり後を弄られていることのほうへ意識がいってしまう。 智紀さんの指が出ては入ってを繰り返し、内壁をたどっていること。 決してスムーズではない抜き差しにその指の形さえはっきりわかってしまう。 痛い、というよりはあり得ないという拒絶。 力が抜けることはなかったけど――― 「……は……っ、ぁ…?!」 「どうかした?」 一瞬覚えたのはこれまでとは違う、違和感。 智紀さんが問いかけてくるけど、その指は今までと同じように動きながらも一点を擦りあげてきていた。

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