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第22話
高速を走りだして二時間ほどしてようやくサービスエリアで休憩することになった。
本当はもっと早くから休んだらどうかと言ってはいたんだけど智紀さんは「ちーくんがトイレ大丈夫なら先進もう」と車を走らせ続けていた。
当たり前のことながら深夜のしかも元旦のサービスエリアに人気はない。
車はちらほら停まってはいるけれど、見渡す限り人の姿はなかった。
店ももちろん閉まっているし、トイレと自販機の灯りがやけに眩しく感じた。
暖まっていた車内から降りれば冷気がいっきに押し寄せてきて身震いしてしまう。
俺はトイレへ智紀さんは一服すると喫煙所に向かった。
トイレで用を足し手を洗いながら鏡に映る自分を見る。
不思議と眠気はなく、目は冴えている。
それでも少し疲れた感じに見えるのは深夜遅いせいか、それともあの人と一緒にいるせいだろうか。
別にドライブ自体は楽しくないわけじゃない。
疲れない程度に会話は続き、沈黙だって落ちたりはしたけれどとくに重いわけでもなく自然なものだった。
ひんやりとした水で手を洗ってトイレをあとにする。
どれくらいで着くんだろう。
しんとした夜の冷気の中で息を白く吐き出しながら、こんなところにいる自分を不思議に思う。
ジャケットのポケットに手を突っ込み視線を彷徨わせると智紀さんの姿が数メートル先に見えた。
俺のほうには背を向け煙草を吸っている。
足を向けかけ、先に自販機に寄ることにした。
寒いし、コーヒーでも買おう。
俺が車に乗った時、智紀さんは俺の分のコーヒーを買っておいてくれていた。
そのコーヒーももうすでに飲んでしまっていたし。
―――ブラックでいいよな。
小銭をいれていってブラックを選ぶ。
静けさの中に缶コーヒーの出てくる音が響き渡って聞こえる。
続けて二本目を買おうとボタンを押しかけたところで、不意に後ろから声がかかった。
「なに、俺のも買ってくれるの?」
驚きで、反射的にボタンを押していた。
「さすが、ちーくん。俺の好みわかってくれてるね」
「……いや適当ですけど」
まだ二回しか会ったことのない智紀さんの好みを俺が知るはずもない。
二本の缶コーヒーを取り出しながら智紀さんは俺の言葉を気にする様子もなく「ありがとう」と微笑む。
そして、
「はい」
そう声がかけられたからコーヒーを渡されるのかと手を差し出したら、コーヒーじゃなく智紀さんの手が重なってきた。
缶コーヒー二本片手に持って、俺の手を繋ぐ。
「……智紀さん」
「なに?」
「手」
「うん?」
相変わらずパッと見は爽やかな笑顔。
他意なんてまったくなさそうなその笑顔が胡散臭く見える、なんて言ったら怒るかな。
いや怒らないだろうな。
きっと『そう?』なんて笑われるだけだろう。
それと同じように、きっといま俺が手を離してほしいなんて言ったって気にしないだろう。
第一、車内でも手を繋いでいたんだし……。
当たり前のように繋がれた手に意味などない。
ただの気まぐれな、戯れだ。
「……手、冷たいですね」
指同士を絡めて繋がれ、伝わってくる冷たさ。
車内では温かかったはずの手は、手の甲に触れる指先からすべて冷え切っていた。
「冬だし」
「確かに」
「俺、意外に冷え症なんだよね」
「そうなんですか?」
「そうそう。だからちーくん温めてよ」
「―――じゃあ、戻りましょう。車。そのコーヒーを持っていれば温まるんじゃないですか」
冷え症だというなら両手にコーヒー持って温まってくれ。
さりげなく手を離そうとしたら、予想通りぎゅっと握りしめられる。
「ちーくんのドS! 僕が温めてあげますよ、とか言わなきゃ」
「……車、戻りましょう」
いろんな意味で冷え切ってしまいそうで、繋がれた手を引っ張り歩き出すと忍び笑いが聞こえてきてそっと溜息をついた。
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