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第28話
「……違うんですか」
喋りながらも智紀さんの手は止まることなく、俺のをまた空気にさらす。
なぜか抵抗しようとしない自分に戸惑うけど、結局されるままで顔を背けながら返した。
「違うよ」
「……」
「京都で初日の出見ようかなーと思ったのテレビでゆく年くる年見てるときだし」
意外に渋い番組見てるんだな……。
ちらりと視線を向ければ目があって、ふっと笑われ勃ちあがったままだった俺のに触れてくる。
「……っ……でも」
「でも?」
「……」
「ちーくん、可愛いね」
「なんですかそれ」
「今日は素直だけど、拗ねたりもして、可愛い」
「……拗ねる?」
なんで、何に対して。
意味がわからずに視線だけで問い返すと、智紀さんは爽やかじゃない男くさい笑みをこぼした。
「んー。俺がちーくんを誘ったのが"ヤリたいだけ"なんじゃないかって思ってそう。で、それがちょっと不服そう」
「……は?」
なに言ってんですか、と思わず言った。
「なんでそれで俺が拗ねるんですか。それに実際そう―――」
話途中で智紀さんが吹きだす。
バカにされたような気がして顔が熱くなる。
なんですか、と言いかけ、
「千裕」
止められた。
俺の顔の横に手をつき、見下ろす智紀さん。
「確かに実際会ったらヤりたくなったけど、誘ったのは別の理由だよ。だから拗ねるなって」
「だから拗ねてなんか」
それで拗ねるとか、それじゃなんかまるで俺が……。
「それで千裕は?」
「は?」
「俺と会うことにしたのはヤりたかったから?」
「……ッ、バカじゃないですか。俺は初詣に誘われたから来ただけです」
「それだけ?」
「他になにがあるって」
もう二度と会うことなんてないと思ってたのに。
「俺にまた会いたかった、とか」
「……」
「ないの?」
燻ってた熱が、冷やされそうになってたのに、また再燃する。
なにも返せない俺の手が掴まれて下に持って行かれる。
智紀さんの手が重なったまま掴まされたのは俺の半身。
「あの夜から、会えなかった昨日まで俺のこと思い出したりしなかった?」
勃ちあがってる俺のを握らせられて、一緒に上下させられる。
ほんの少し俺より大きい智紀さんの手と俺の手が、俺のを擦って。
半身の熱さに息が詰まって、快感に手が震える。
「こんなに熱く硬くさせてるのはなんで?」
「……いま触ってるから……っ」
「そう? 俺と会えなかった間、寂しくなかった?」
問いかけばかり。
でもきっと答えなんてこの人は必要としてない。
「別に……」
智紀さんと一緒に手を動かしながら、返事する俺の声は小さい。
「あの夜のこと、思い出したりしなかった?」
いまは朝なのに、まるであの夜に戻ったかのように錯覚する。
部屋の明るさなんて気にならず、俺を見下ろすこの人に目を奪われる。
逸らすことなんてできないんだって思い知らされるように、その目に捉われる。
「俺のこと、思い出さなかったの?」
拗ねるように一瞬眉を寄せ、だけどすぐに楽しげに口角を上げる。
「思い出さなかった?」
水音が下から響いてくる。
溢れる先走りにスムーズに動く手。
「……少し……は」
「少しだけ?」
「……」
「俺のこと思い出して、あの夜思い出して」
俺が、この人に敵うはずなんてない。
「こうしてココ、こんな風にシた?」
何度も揺さぶられて、堕とされる。
「……してな……っ」
「本当に?」
「……」
笑う、その吐息が唇に吹きかかる。
「千裕」
身体がざわざわざわついて眉を寄せて、智紀さんを見つめた。
俺を追い詰める男は唇を触れ合わせ、咥内を犯してくる。
「……っ……ン……」
唾液を飲まされ、下唇を噛まれ。
「ちーくん」
俺のを握ってた手が離れる。
残ったのは俺の手だけ。
疼いて熱くて仕方ないのに、中途半端に止めることなんてできるはずない。
「俺のこと思い出してシたときみたいにシてみせてよ」
「……む……り……です」
「なんで? ほら、できてるよ」
動き続ける、俺自身を扱く手の甲を撫でられる。
ひとりでスる?
この人の前で?
そんなバカなことできるはずない。
なのに、
「いい子だね」
落される甘い声に、手が止まらない。
自分の状態がどうかなんて自分がよくわかってる。
男だし、そりゃひとりで抜いたことなんて何回だってある。
適当にエロ本見たりAV見たり……重ねたりして……適当に抜いて、虚しくなって。
欲は吐き出してもたいしてスッキリするわけじゃない。
シてるときだけ、それなりに気持ちよくはなるけど。
気持ちよくはなっても、それは生理現象でしかなくて。
こんな―――。
「っ……ぁ、っ……」
「気持ちいい?」
他人に見られてるのに、萎えるどころかいつも以上に敏感に脈打ってる半身に愕然とする。
だけど手は止められなかった。
俺を見下ろす智紀さんの目に逃れることができずに、羞恥はあるのに、なのに煽られる。
扱く半身から先走りが溢れてるのは知ってる。
俺の指を濡らすそれを半身に絡めて動かして、滑りよくなってくちゅくちゅと音が立つ。
恥ずかしくて、情けなくてたまらない。
だけど俺の半身は興奮してて、漏れる呼吸も荒くなるばっかりだ。
「俺に触られるより気持ちよさそう」
わざとらしく拗ねるように言って、笑いながら智紀さんが身体を起した。
寄せ合ってた身体が離れて、俺の痴態が晒される。
とっさに動かしていた手を止め、離せばすぐたしなめられた。
「だめだよ。ほら、俺に見せてよ。千裕がひとりでシてるの」
「……っ、無理ですっ」
でも素直に再開できず身体を起こして背を向けた。
身体を寄せ合っていれば直接扱いてるところを見られることはないけど、全部晒されてそれでもできるほど度胸はない。
身体は疼く。けど、欲情を上回る羞恥にうろたえていると後ろから抱きしめられた。
「しょーがないな。じゃあこうすれば少しは恥ずかしくなくなるでしょ」
後ろから抱きしめられたまま、俺の手を掴んで俺の半身に導く。
「こうしてれば俺からはあんまり良く見えないし。ね?」
俺って優しい、くすくすと笑う声が耳に響いて、どこが、と言いたくなった。
優しいやつがひとりでシろなんて言うはずない。
だけど添えられた手に促されるようにまた自ら手を動かしてしまったのは、俺を抱きかかえた智紀さんの熱い塊が腰に押し付けられてるからだ。
布越しにだけど伝わるはっきりとした硬さ。
「ちーくん、シてみせてよ」
早く、と首に唇が触れてきて吸われる。
やっぱり今日の俺は絶対に変だ。
「ひとりでシたとき俺のこと思い出してちゃんと触った?」
「……っ……く」
腰に感じる硬い熱と悪戯に触れる唇と抱きしめる腕に、手の動きが早くなる。
否定も肯定もできない。
ただおかしいくらいに快感が押し寄せて、だけどたらなくて身体が焦れる。
疼きを発散させたくて必死に扱いた。
「俺があの夜どんなふうに千裕に触れたか、ちゃんと覚えてた?」
あの夜を―――忘れる、なんてできるはずがなかった。
明るい部屋の中で、あの夜を思い出す。
俺の知らない快感を引きずりだされたあの夜。
心臓が痛いくらい早くなって、やっぱり身体が疼いて、先走りを絡めぬるぬると手を上下させる。
そのたびに硬度は増し、背中に感じる智紀さんに疼きが増す。
なにをしてるのか、したいのか。
認めたくない。
けど、俺は―――、このひとに。
「……あ、ッ……ん、は……っ」
「もう、イク?」
冬だというのに汗が滲む。
笑みを含んだ声に頷くかわりに絶頂に達するためにがむしゃらに扱いた。
ひとりでスルことを覚えたガキみたいに、ひたすら摩擦を送って。
「早く、出せよ」
耳元で囁く声にきつく擦りあげて、言われるまま白濁を吐きだした。
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