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第30話

異物感と圧迫感。 当たり前だけど受け入れる場所じゃないところに指が挿入されれば苦しい。 二週間前智紀さんを受け入れた俺の後孔は固く閉じていて、智紀さんは焦ることなくゆっくりとほぐしてく。 「……っ、ん」 「大丈夫? ちーくん」 心配する声は笑いを含むものだけど、動く指は優しい。 ぐちゅぐちゅとローションの響く音とともにもうすでに二本挿入されてる指は内壁を押し広げながら出入りしている。 「ぁ、っ……く」 呻きしかあげれない俺は声を押し殺したくて枕にきつく顔を沈める。 伏せてないと羞恥でどうにかなりそうってのもある。 最初あおむけだった俺はいまうつ伏せになって尻だけを高くあげる格好にされてた。 四つん這いになってって言われたときには顔から火を噴くかと思った。 確かにこの格好のほうがほぐしやすいんだろうけど……。 「……ひ……っ、ぁッ」 時折前立腺をかすめる指。 智紀さんのことだから意図的だと思うけどたまにしか触れてこないから妙に熱が燻って、それも苦しかった。 「智、紀、さん……っ」 「なに、ちーくん」 早く突っ込みたい、なんていったくせにどこまでも余裕の声音。 「も、う、っ……んっ」 早く触れてください、って俺が……譲歩したっていうのに、後孔に触れてはいるけど俺の半身は放置されたまま。 欲しかった確かな快感を得るには至ってない。 「もう?」 「……っ、ぁ」 ごり、と前立腺を擦られて腰が跳ねる。 疼くばっかりの俺の身体。 「ああ、もう一本増やしてオッケーってこと?」 違うだろ! いや、違わないけど。 ちゃんとほぐさないと後が辛いってことはわかってる。 だけどもっと、もっと―――。 「ッ、ぁっ、は……っ」 俺は頷いてないのに、増す圧迫感。 ローションも追加されたのかさっきよりも水音が激しくなってる。 「だいぶ柔らかくなってきたね?」 ゆるゆると動く指は後孔の感触を確かめるように動くだけ。 「……っ、くるし……っ」 焦らされて、そう呟けば笑う気配。 「そう? でも気持ちいい、だろ?」 枕に顔を押し付けたまま首を横に振る。 それに返る喉を鳴らす音。 少し動く気配を感じたとたん、一回抜いてから放置されてた半身がきつく握りしめられた。 「硬くなってるし」 「……ぁ、っ……」 動くわけじゃない手に、だけど包まれてるだけでも快感が背筋を駆けあがった。 「ちーくん。腰揺れてる」 忍び笑う声に、身体を強張らせたら、 「あ、締まった。俺の指食いちぎられそう」 と、また笑われる。 ほんっとうに―――最悪だ、このひと。 なんで素直に触れて欲しいなんて言ったんだろ。 俺と同じように智紀さんの半身だって勃ってたはずなのに、なんで平気なんだろ。 濃密な空気は流れてるはず。 だけど俺を堕してはくれない。 「とも……きさ、んっ」 「なーに」 ふわり、と俺の半身から手が離れてく。 解放されて逆に辛い。 「もう、っ……」 「もう?」 「……っ、いいですっ……」 どんだけドSだよ、この人っ。 もう一度、触れてほしいなんて、もう言えない。 言いたくない。 「いいの?」 「……っ」 ずるり、と指が引き抜かれた。 圧迫感が消え、同時に喪失感に襲われる。 拡げられた後孔が空気にさらされて。 「ごめんごめん。素直なちーくんが可愛くってちょっと焦らしプレイっていうの?してみた」 のんきな声が響いて、そして俺を呼ぶ。 「ちーひろ。こっち向いて」 向きたくない。 「拗ねるなって」 拗ねてるわけじゃない。 「千裕」 尻を手が撫で、仕方なく枕から顔を上げ肩越しに後ろを見る。 智紀さんと目があって。 「ほら、ちゃんとヨクしてあげるから」 硬い熱が後孔に宛がわれて。 びくり、とした一瞬後――― 「ッ、イ……っ……ァッ」 容赦なく一気に、貫かれた。 スパークする思考、世界。 「……千裕の中、狭いね」 中途半端に熱に侵されてた身体が支配される。 半身もまた握りこまれて、ゆっくり動きだす腰とともに摩擦を送りはじめられて。 「ま、待っ……」 「早く、ってねだったのは千裕、だろ?」 やっぱり智紀さんは―――ドSだ。 と、眩む視界の中で思った。

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