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第32話
静かな和室の部屋に俺たちの乱れた呼吸だけが響いてる。
密着している肌は汗ばんでいて、ふと見た窓の向こうには雪が舞っていた。
「……雪だ」
「え? 本当だ」
身体を起こしゴムの処理をしながら智紀さんも窓の方に目を向ける。
俺も今度は自分でティッシュを取って腹についた白濁を拭きとった。
「いいねー、雪のお正月も」
「そうですね」
「起きたとき積もってるといいな」
「綺麗だろうな……」
雪の積もった景色は風情を増すんだろうな。
さっきまでの熱情も忘れ見入っていたら手を引っ張られてまた布団に逆戻り。
「……着ないんですか、浴衣」
素肌のまままた密着する。
窓の方をお互い向いた状態。横を向いてる俺を後ろから智紀さんが抱きしめてる。
「いいんじゃない。羽毛布団で暖かいし、人肌も温かい、だろ?」
「……そうですけど」
それはそうだけどやっぱなんか恥ずかしい。
「積もったら雪合戦でもする?」
「……どこでですか」
「そこの庭で」
「いや、ダメでしょう」
「ダメなの」
「たぶん……」
「じゃあ雪見風呂しながらエッチかなー」
「……」
雪合戦からどうしてそっちに飛ぶんだよ。
無言でいると笑う気配がして一層強く抱きしめられた。
「ちーくん」
「はい?」
「気持ちよかった?」
「……はぁ……」
「俺は気持ちよかったよ。またあとでシようね」
「……」
結局どうしても二回戦がしたいってことなんだな。
きっと雪を見ながら風呂で……っていうのは実行されそうな気がした。
もう本当にありえない。
そう思うのに―――雪見風呂はいいなっていうのも思う。
するしないは別として……。
でも積もらないだろう、たぶん。
朝日はまだ射していて、明るい陽の光のなかで白い綿雪が舞ってる。
初日の出を見て、今年の初雪をいまこうして見ていて。
背中に感じる温もりがだんだんと違和感ないものになっていく。
俺を抱きしめる腕もイヤではなくて―――……。
「あの……智紀さん。訊いていいですか?」
ふと、ひとつ思い浮かんだことがあって、いまの静かな空気なら訊けそうな気がして口を開いていた。
だけど―――いつまでたっても返事がない。
不思議に思ったとたんに耳に寝息が聞こえてきた。
「……」
そういえば、少し回された腕の力が緩んでる気がする。
そっと身体の向きを変えると目を閉じた智紀さんが映った。
「……寝てる」
あの夜は俺がさきに落ちてしまって、朝だって俺より早く起きていた。
「……寝るんだ、智紀さんも」
当たり前のことなんだけど、少しおかしい。
よく考えれば徹夜で運転して、その上……シたんだし疲れたよな。
穏やかな寝息を立てている寝顔は妙に幼く見えて、口元が緩んだ。
「おやすみなさい」
腕疲れないかな、そう思いながらもそのまま俺も呟いて―――目を閉じた。
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