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第54話

触れ合った唇、俺から舌を出してその唇を舐める。 途端に舌が絡まってきてきつく抱きしめられた。 背中にまわされた腕の力強さに胸が苦しくなる。 いつもより性急に、激しいキスに一気に熱が上がってくる。 やけに心臓の音が激しくて羞恥に見舞われながら咥内を侵してくる舌に必死で応えた。 「……っ、ん」 唾液を渡され、飲み込む間もなく蹂躙されこぼれてしまう。 息継ぐ間もないキスに俺は智紀さんにしがみついた。 いつもと同じで、いつもと違うキス。 こんな路地裏でこのままヤってしまうんじゃないかっていうくらいの勢いで、熱が下半身に集まってくる。 ぐっと智紀さんの肩を押すとようやく離れた。 「……ここでヤる気ですか」 「まさか。でももうちょっと」 妙に甘くて優しい声が息を切らしている俺にかかり、そしてまた唇が塞がれる。 いやでもヤる気じゃ、っていう焦りと、智紀さんの言うようにもう少しこのままっていう欲。 いまは後者のほうが勝っていた。 こんな裏路地で、いつ誰が来るかもわからない。 だけど―――こうしてこの人に触れるのを、触れられるのを望んだのは俺だ。 離れた手をイヤだって思ったのは俺だ。 「ん……っ、は」 いよいよヤバイくらいに熱を持ちすぎた身体に、緩んだ理性がここでこのまま、なんて普段なら思わないことを考えてしまう。 無意識に腰を押し付けてしまっていたら、腰を撫でられそれだけで痺れるような感覚が背中を走る。 「―――千裕」 ちゅ、とリップ音を立てて離れていった智紀さんが、勃ってる、と色気のありすぎる顔で笑い俺の耳に舌を這わせた。 「やっぱ可愛いな」 可愛くないですよ、なんて思うヒマもない。 吐息とともに囁く声が、好きだ、と続けて。 俺はまた返事のかわりに終われないキスを返した。 *** キスだけで動けなくなる、なんてあるんだろうか。 いやあるよな。 いまがまさにそんな状態で俺は智紀さんにもたれかかっていた。 どれだけの間キスしていたのかはわからないけどかなり長い間キスしていたのは確かだ。 おかげで頭はぼうっとしてるし、身体は疼いているし、俺のものは反応しまくっている。 抱きしめられている状態だからそれは智紀さんにも伝わってるだろう。 「そろそろ帰ろうか」 「えっ」 ぽつりと言われた言葉に思わず声を上げて、赤面する。 途端に智紀さんがくすくす笑って、 「俺んちに行こうってこと」 俺の顔を覗き込んでくる。 「……はい」 小さく頷きながらも、ちょっと戸惑う。 このままここでヤるんじゃないかっていう勢いもあっただけに、どうしようもない状態になっているし―――てっきり俺はその辺のホテルにでも行くのかななんて漠然と思っていた。 「いや?」 反応の薄い俺に目ざとく気づく智紀さんがケツをするりと撫でてくる。 「……いや、とかじゃなくって」 近くのラブホでも、と小声でぼそぼそと言う俺にまたキスが落ちてきた。 「っ、ちょっ」 これ以上されたら本当やばい気がして肩を叩けば、智紀さんは笑いながら俺の首筋に顔を埋めた。 「俺もこのままここでヤっちゃいたいし、近くのラブホでもいーんだけどさ。多分、俺」 耳に吐息が吹きかかる。低くなった声が、 「当分ちーくんのこと離せなくなると思うからゆっくりできる自宅のほうがいいかな、って」 軽く、だけど熱を孕んで俺を捉える。 「……」 離せなくってどれだけだよ。 でも明日も明後日も休みだし―――。 「……あの」 ずっとベッドにいそうだな。ってのは予感でもなんでもない。 それはそれとして、いまだ。 「うん?」 「……もうちょっと待って下さい」 まだ熱のおさまらない俺の身体。いまの状況で電車とか乗れそうにないからそう言えば吹きだされた。 タクシーで帰ればいいよ、でもまだ電車あるのに、って交わせば、 「千裕、いまどれだけ自分がエロい顔してるかわかってる?」 電車になんか乗れないって、と俺の頬をつねってきた。 「……」 智紀さんだって、と内心言い返したくなりながら黙ってこの熱を一旦逃さなきゃってことを考えていたら手を引かれた。 「はい、帰ろ」 「え、だからちょっともう少し落ち着いてから」 「だーめ。―――俺も限界。まじでここでヤっていいならいいけど?」 口角を上げた智紀さんはその言葉が冗談交じりで、本気だろうってことがわかる余裕のないもので。 俺は目を泳がせながらも俯いて歩き出した。 裏路地から出ればすぐにタクシーは捕まってふたり乗り込む。 その間ずっと繋がれている手は悪戯に俺を弄ぶ。 掌でさえ、手の甲でさえ、どこでも性感帯になりえるんだっていうのを実感しながらも、タクシーの運転手がいる空間に少し冷静さを取り戻した俺はずっと俯いていることしかできないでした。 いまさら、自分がしたことを思い出して、認めて頭の中がごちゃごちゃしてる。 数時間前までは答えも出せず迷っていた。 でもいまは―――隣にいる智紀さんは俺の……。 この手をとったのは俺。 ―――後悔はしてない。 驚くほどすっきりとした気分もあるんだけど、それ以上に心臓がうるさい。 そう言えば俺は―――ずっと従妹の鈴が好きだったから。 本当の意味でそういう相手と恋人になるのは初めてなんだ。 そんなことを気づいてしまえるくらいにはタクシーに乗っている時間は十分あって、俺はますます顔を俯かせていた。

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