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—— 身体と愛と涙味の……(13)
でも、ここで悩んでいても仕方がないし……。 俺はシャツの裾を押さえながらリビングに向かった。
ドアを少し開けて、顔だけ部屋の中を覗きこむと、魚を焼く香ばしい匂いが漂ってくる。
途端に、朝から何も食べていない事を思い出して、急激に空腹を感じた。
「お、さっぱりしたか? もうすぐ出来るから、座って待ってなよ」
キッチンから顔を出してみっきーはそう言ってくれるんだけど…… 俺はシャツの下がスースーするのを何とかしたいんだ。
「あ、あの、下着が無いんですけど……、あと良ければズボンも何か貸してもらえれば……」
「なんでー? いらないじゃん、どうせ脱ぐし」
どうせ脱ぐって、どういう事だよ!
「いや、脱がないからっ」
慌てて叫ぶ俺の顔を見て、みっきーが声をあげて笑い出した。
「あはは、顔真っ赤にして何を勘違いしてるの? 薬塗るからって意味なんだけど?」
出来上がった料理をテーブルに運びながら、悪戯っぽい目線を送ってくる。 テーブルの上には、焼き魚の他にも、ほうれん草のおひたし、ひじきの煮物とか、美味しそうな和惣菜が並んでる。
「先に、薬塗ろうか」
美味しそうな料理に気を取られていたら、いつの間にか背後に立ったみっきーに、ふいに後ろから抱きしめられて、驚いて体が跳ねてしまった。
「ちょ、なに……」
「しかし、いいねぇ、彼シャツ♪」
嬉しそうに声を弾ませて、シャツの裾から滑り込んできた手が、案の定俺の半身を握ってくる。
「ちょっ、」
逃げようとする俺を引き寄せて、もう一方の手がシャツの上から胸の尖りを軽く摘む。
「う~~ん、いい匂い」
項に顔を埋めて、犬みたいにクンクンしてるし。
「や、やめッ、くすりッ塗ってくれるんでしょ?」
腕から逃れようと身を捩りながら後ろを振り向けば、みっきーはポケットから何故か眼鏡を取り出した。
「じゃあ、診察しましょうか」
なんか怪しいセリフを言いながら、掛けた眼鏡の中心を、中指で押し上げてニヤリと笑ってんだけど!
—— お医者さんごっこでもするつもりなのか?!
「どこの藪医者だよ……」
思わず、声に出して言ってしまったけど、みっきーはそれも楽しむように笑っている。
「ひどいなぁー、これでも本当に医者なんだよ? さ、そこのソファーで四つん這いになって、お尻を先生に見せてくれるかな?」
「ちょ、医者じゃないでしょー? バーのマスターでしょ?」
そう言って嫌がりながらも、なんか俺、ちょっと笑ってしまった。 ホントにこの人、どこまで本気なのか冗談なのか分からなくなってくる。
結局、みっきーに引き摺られて、俺はソファーの上で四つん這いとか、恥ずかしい姿勢をとらされてるんだけど。
「ある時は、バーのマスター、ある時は藪医者、さてその正体はいったい……。 なんだと思う?」
おどけながら、俺の尻を辛うじて隠しているシャツを捲り上げる、みっきー。
「ただのエロ魔人だろっ?」
本当に薬を塗る為なのかと不安になってくるし、こんな明るい部屋で尻を見られるのって、思った以上に恥ずかしい。 思わずみっきーの手を払い退け、捲られたシャツを元に戻して、俺はソファーの上で正座した。
「医者とか信じられないし、やっぱ、ヤダ」
「もう、困った患者さんだな。マジだよ、本当に医師免許は持ってるよ、内科専門だけど?」
「うそ……」
「でも、仕事はバーのマスターだったり、ああ…因みに、あのバーの入ってるビルのオーナーでもあり、あのビルの中に入ってる輸入雑貨屋の店主でもある」
「え?」
あのバーが入っているビルは、かなり立地条件の良い場所にあって、地価だけでもすげえと思うんだけど……、ビルのオーナー?
「みっきーって、凄いんだね」
「いや、俺が凄いんじゃなくて、じーちゃんが凄いの」
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