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―― 身体と愛と涙味の……(22)
みっきーのお母さんが作ったというクリームシチューは、野菜とお肉がたっぷり入っていて熱々で、すごく美味しくて身体の芯からあったまる。
「すっごい美味しいね」
「意外でしょ?」
みっきーに訊かれて、俺はスプーンに掬ったシチューをフーフーと息を吹きかけて冷ましながら、上目遣いにみっきーを見上げた。
「何が?」
「うちの母親、普通の家庭料理を毎日作って、時々こうして持ってきてくれるの」
「ああー、そう言われてみれば、意外かも……」
金持ちの奥様って、専属のコックとかがいて、食事の時は長細いテーブルで白いナフキンとか膝にのせてさ、メイドとかもいて、家事なんかしないってイメージ?
「うちの両親、恋愛結婚なんだよ」
「え? それって変わってる事?」
「いや、会社の事とかもあって、見合いでって事が多いんだけど、父親ははそういうのが嫌で、母と駆け落ちとかしたそうだよ」
「へえ、やるね!お父さん」
「それで、なんだかんだで、結婚を許してもらったんだけど。だから俺の母親は普通に家事や子育てをしてさ、もう三十路の息子ところに、作った料理を時々届けたりするんだよね。何歳になっても、子供は子供らしいよ」
――へ?
「俺は多分、父親に似てて、家の為に好きでもない人と結婚するタイプじゃないんだよね」
――うん、みっきーはそういうタイプじゃないよね……。いや、その前に……
「だから、家の仕事は継がないって言うのを、じーちゃんは怒っているだろうけど、両親は反対してないんだよ。まぁ、そのせいで勇樹が苦労してるのも事実で……」
――ん、そうなんだ。でもそれよりも、俺が気になるのは……
「勇樹が俺の事を、いい加減だって怒るのもその辺りの理由だとは思う」
――なるほど! それでなのか。……うん、いや、それよりも、俺、ちょっと聞きたい事が……。
「だからさ、さっき言った事……、」
――うん、さっき言った事、気になるっ。
「俺に付いてきて、一生一緒にいてくれる? って、今すぐじゃなくて、もっと未来の事だけど、冗談で言ったんじゃないからね」
「うん、分かった。それより、三十路って? みっきー30歳なの?」
「……へ?」
みっきーの動きが一瞬止まった後、掌を額に当てて「うーん」と唸ってる。
「あのね、俺…… 今、真面目にプロポーズしたつもりなんだけど……」
上目遣いで俺を見るみっきーが、なんだか可愛くて…… ちょっと面白くて、俺は笑いが込み上げるのを我慢できなくて……。
「くっ、くっ、」
口を押さえた手の隙間から、我慢できずに笑い声が零れてしまう。
「もーー、なおぉー。いいよもう、分かったよ。俺は30歳! 悪かったな、おじさんで!」
いつも飄々としているみっきーの、拗ねてる姿が意外に可愛かったりして、俺が堪え切れずに大笑いすると、みっきーも一緒になって、大きな口を開けて笑いだした。
「いや、おじさんじゃないよ、若いよ、みっきーは、あははは」
「もー、笑いすぎだよ、直」
その後も二人で顔を見合わせて、またお互い大声で笑って……。
茶化してしまったけど……
本当はみっきーの真面目な告白も、俺の胸にはちゃんと響いてる。
――だけど、俺……今は、やっぱり……。
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