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—— 身体と愛と涙味の……(21)
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……なお、なーお! ……
「……う……ん」
「起きて、なおっ」
ペチペチと頬を叩かれて目を開けたら、視界いっぱいにみっきーの顔。なんでか唇を塞がれて、みっきーの舌が思いっきり俺の咥内で暴れてる。
「ん、ん……ッぃー!」
名前を呼んだけど、思った通りに喋れなくて!
「ぷはッ……はーーッ、もっ、何やってんだよ……。窒息するかと思った……ッハァ……」
「何って、やっぱりヒロインは王子様のキスで目覚めるのが定番だから?」
アホな事を言いながらも、チュッチュッとリップ音を立ててキスの雨を降らすみっきーの顔を掌で押しのけて上体を起こし、部屋がすっかり薄暗くなっているのに気が付いた。
「あれ、今何時かな」
「5時過ぎたとこ。 そろそろ準備して、俺、店に顔出さないと。 ちょっと早いけど夕飯食べる? シチューがあるんだけどさ」
「うん、食べる。」
なんか、寝ていただけなのに、お腹が空いてる。
「食欲あるんだ。身体の具合どう? 熱も下がってるみたいだね」
そう言ってみっきーは、自分の額を俺の額にコツンと当てた。
「うん、痛みもないし、随分身体が軽くなったかも」
「それは良かった。じゃ、おいで」
差し出された手を取ると、ギュっと握られた瞬間に引っ張り上げられて、俺はみっきーの腕の中にすっぽりと入ってしまう。
「大好きだよ」
「……」
耳元で囁かれて、すぐに応えを返すことが出来ないでいる俺のこめかみに、キスをひとつ落として、みっきーはにっこりと微笑んだ。
「じゃ、シチュー温めるね」
そう言って、俺の頭をポンポンと軽く叩いて、部屋を出て行くみっきーの背中に、「俺も、手伝う」と、言って、慌てて後を追いかけた。
――ごめんみっきー……俺、何も言えなくて……。
******
「シチューも、作り置きしてたの?」
いったいいつの間に用意したんだろうと思って尋ねれば、温かな湯気を立ち昇らせているシチューをディーププレートに盛り付けながら、「いや、これはさっき勇樹が持ってきてくれたの」と、みっきーが答えた。
「母親に、たくさん作ったから俺のところに持ってけって、言われたんだって」
—— ああ、あの紙袋そうだったんだ。
テーブルには、クリームシチューと、みっきーが手早く作ってくれたアボカドとサーモンのカルパッチョに、ガーリックトースト。どれも美味しそうで、腹がキュルルと音を立てた。
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