89 / 351

 —— 身体と愛と涙味の……(21)

 *******  ……なお、なーお! …… 「……う……ん」 「起きて、なおっ」  ペチペチと頬を叩かれて目を開けたら、視界いっぱいにみっきーの顔。なんでか唇を塞がれて、みっきーの舌が思いっきり俺の咥内で暴れてる。 「ん、ん……ッぃー!」  名前を呼んだけど、思った通りに喋れなくて! 「ぷはッ……はーーッ、もっ、何やってんだよ……。窒息するかと思った……ッハァ……」 「何って、やっぱりヒロインは王子様のキスで目覚めるのが定番だから?」  アホな事を言いながらも、チュッチュッとリップ音を立ててキスの雨を降らすみっきーの顔を掌で押しのけて上体を起こし、部屋がすっかり薄暗くなっているのに気が付いた。 「あれ、今何時かな」 「5時過ぎたとこ。 そろそろ準備して、俺、店に顔出さないと。 ちょっと早いけど夕飯食べる? シチューがあるんだけどさ」 「うん、食べる。」  なんか、寝ていただけなのに、お腹が空いてる。 「食欲あるんだ。身体の具合どう? 熱も下がってるみたいだね」  そう言ってみっきーは、自分の額を俺の額にコツンと当てた。 「うん、痛みもないし、随分身体が軽くなったかも」 「それは良かった。じゃ、おいで」  差し出された手を取ると、ギュっと握られた瞬間に引っ張り上げられて、俺はみっきーの腕の中にすっぽりと入ってしまう。 「大好きだよ」 「……」  耳元で囁かれて、すぐに応えを返すことが出来ないでいる俺のこめかみに、キスをひとつ落として、みっきーはにっこりと微笑んだ。 「じゃ、シチュー温めるね」  そう言って、俺の頭をポンポンと軽く叩いて、部屋を出て行くみっきーの背中に、「俺も、手伝う」と、言って、慌てて後を追いかけた。  ――ごめんみっきー……俺、何も言えなくて……。 ****** 「シチューも、作り置きしてたの?」  いったいいつの間に用意したんだろうと思って尋ねれば、温かな湯気を立ち昇らせているシチューをディーププレートに盛り付けながら、「いや、これはさっき勇樹が持ってきてくれたの」と、みっきーが答えた。 「母親に、たくさん作ったから俺のところに持ってけって、言われたんだって」  —— ああ、あの紙袋そうだったんだ。  テーブルには、クリームシチューと、みっきーが手早く作ってくれたアボカドとサーモンのカルパッチョに、ガーリックトースト。どれも美味しそうで、腹がキュルルと音を立てた。

ともだちにシェアしよう!