111 / 351
—— 想う心と○○な味の……(9)
—— もう、透さんには会えない。 二度と逢えないんだ。
そう考えると、胸の奥が痛いくらい苦しくなって、息が…… できない……。
「…… っ、」
苦しい、苦しい……、痛い……、苦しい。
透さんと、もう二度と逢えない。
そう思うだけで、身体の全部の機能が止まってしまうんじゃないかって思うくらい、苦しい……。
—— 透さんは、俺の事なんてもう忘れてしまってる……。
透さんに忘れられてしまう事が、こんなに辛いなんて考えたこともなかった。
クリスマスイブに公園で偶然出逢った事も、
一緒にケーキを食べた事も、
透さんと過ごした時間が、全て無かった事になってしまう。
——『直くんは? どう思ってる? 俺のこと』
本当は、最初から気付いてた。 自分の気持ちに。
生クリームは、ただのきっかけで、
クリスマスイブのあの夜、公園で偶然出逢った時から……、いや、もしかしたらもっと前から。
「直っ、」
ストンと何かが心の中に落ちて、頭の中がスッキリしたように感じたら、急にみっきーの声がクリアに聞こえてきた。
「…… ぁ……、」
みっきーの指が、俺の頬に触れている。
「…… 直……、」
「…… ふぅ…… っ……」
やっと息を吐き出して、それでやっと気が付いた。
「…… 俺……、泣いて…… んの?」
「そうだよ、泣き虫め」
止め処も無く流れている涙を、みっきーが指で拭ってくれている。
「俺……、もう逢えないなんて、嫌だ……」
「誰に……? 誰に逢えないのが嫌なの?」
「…… あ……、」
透さんに……、なんて、みっきーに言えない。
「ばーか」
みっきーは、苦笑しながら俺の頭を小突く。
「痛ぇ……」
頭を押さえながら、みっきーを見上げれば、「やっと分かったか」って、言いながら笑ってる。
「みっき……、俺……」
「うん」
「透さんが、俺の事を忘れるなんて考えた事なかった」
「うん」
「透さんに、もう二度と逢えないなんて、考えた事なかったんだ」
「あーーーっもう!」
みっきーが急に大声を出したと思ったら、俺の髪の毛をぐしゃぐしゃに掻き回した。
散々かき回した後、俺の頭をみっきーの逞しい胸に引き寄せて、抱きしめられる。
「俺って、めちゃいい奴だろ?」
みっきーの言葉に口元が緩んで、つい、「うん…… 惚れそうだよ」って、言ってしまった。
「だからー、俺に惚れればいいのにね、直は」
「ホントだね」
でも俺は、やっと気付く事ができた。
男同士だからって、本気で好きになる筈がないって、頑なに決め付けていた。
透さんが俺の事をどう思ってるかは分からないけど。
俺は、透さんの事が好きなんだ。
もう一生逢えない、なんて、考えただけで胸が押しつぶされそうな痛みに耐えられそうにない。
許されるのなら、もう一度逢いたい。
それでちゃんと伝えたい。
あなたのことを…… 心から想ってる。
ともだちにシェアしよう!