112 / 351
—— 想う心と○○な味の……(10)
「行っておいでよ」
そう言って、みっきーはテーブルの上の煙草に手を伸ばし、指先で箱の上部をトントンと軽く叩いて滑り出した1本を唇に挟む。
「…… え?」
「会いたけりゃ、会いに行けば?」
会いたい……。
透さんは、もう俺の事なんか忘れているかもしれないけれど。
「でも…… 俺から連絡する手段が……」
「そんなの! 住んでる場所、知ってるんでしょ? 直接行っちゃえばいいじゃない」
—— 直接……。
そっか、そうだよな。 携帯の番号とか分からなくても、直接マンションに行けば会える。
「これから行くなら、送って行ってあげるけど?」
「みっき……」
なんでそんなに俺に優しくできるんだよ。 って思う。
「俺、みっきーの告白を断って、透さんのところに行こうとしているのに?」
「なんでかなぁー、ほっとけないって言うか…、まぁでも直の気持ちが透さんのとこにあるまま、無理やり俺のものにしちゃっても虚しいだけって言うか……」
一旦言葉を区切って、みっきーは深く肺に吸い込んだ煙を、ふーっと、音を立てながら細く長く吐き出して、「だから当たって砕けてきたら?」なんて、縁起でもない言葉を続ける。
「…… 砕けたくないけど……」
みっきーの言うように、もう彼女とか、いるかもしれない。
そんな事を考えると、俺なんかがマンションに行って、彼女とばったり…… とか、なんて事になったら…… って、不安になる。
「大丈夫、それでダメだったら、俺んとこに来ればいいんだし?」
「みっきーは、もしかして俺と透さんはもう駄目だって、確信してる?」
「ふふ~ん、どぉかな~~」
悪戯っぽく笑いながら、もったいぶった言い方するから余計に不安になるじゃんか!
「でも、うまくいくかもしれないでしょ?」
「うまくいくかな……」
多分、うまくいく確立は低いと思う。
「直と透さんがうまくいっちゃったらさ、俺ってすごいかわいそうじゃない?」
「ぷっ……」
自分で言うから、どうしてもかわいそう…… とか思えなくて、込み上げてきた笑いを我慢できずに、声を出して笑ってしまった。
「もう! 冗談じゃなくってさ……」
そう言いながらみっきーは、いきなり俺の身体を持ち上げて、今まで俺が座っていた椅子に腰掛けると、そのままその膝に俺を座らせる。
「え、ちょっみっきー!?」
「しーーっ、店に聞こえちゃう」
「…… って、なっ? 何する気!」
—— 店に聞こえたらマズイ事でもする気か?
後ろからギュッと抱きしめられて、俺は、みっきーの膝の上で、ジタバタともがいた。
ともだちにシェアしよう!