113 / 351

 —— 想う心と○○な味の……(11)

「…… 透さんとうまくいっちゃったらさ、もう俺とはエッチ出来ないでしょ?」 「…… ! し、しないよっ、好きな人としかしないって、言って……」 「だから、最後に一回だけしよっか、さっきの続き」  俺が最後まで言い終わらないうちに、みっきーがとんでもない発言を被せてきた。 「いっ…… 一回だけって…… 駄目だって!」  もーっ、何考えてるんだ、この人は!  つか、もうすでに みっきーの手は俺の服の下を弄っているし! 「んーー、ケチだなぁー、」 「…… んな事にケチも太っ腹も、関係ないしっ」 「ぷぷっ、何それ。 じゃあ、キスは? キスくらいいいでしょ?」  背後から顎を捕らえて俺の顔を振り向かせると、唇を近づけてくる。 「そんなの、いいわけ!…… や、やめっ、…… んっ」  何とか避けようと、みっきーの膝の上でバタバタと暴れても、敢え無くみっきーの唇に塞がれてしまった。  逃げてもまた追いかけられて、また啄ばまれる。 「ちょっ、まじ、もっ、しつこいっ!」  クスクスと笑いながら、何度もキスを仕掛けてくるみっきーは、完全に俺を遊んでいる。 「ほら、ちゃんと逃げないと、舌入れちゃうよ?」  首を振って逃げると、「キスに気を取られ過ぎ」と、言いながら、服の下に入れた手に肌を撫でられる。 「…… ふ、ぁっ……、」  胸の尖りに辿り着いた指に摘まれて、出したくない声を漏らしてしまう。 「あはは、感じやすいんだよね、直は」 「うるさいっ! も、やめ…てってば!」  みっきーの膝の上から逃れようと、前かがみになったところを、項に顔を埋められて、ねっとりと舐め上げられたその時、 「何やってんだよ!」  大きな音を立ててドアが開けられた瞬間、怒鳴りながら部屋に入って来たのは…… 「…… 桜川、せんぱい……」  またもや、こんな場面を見られてしまって、背中に冷たい汗が流れた。 「なんだ勇樹、お兄ちゃんの邪魔すんなよ。 森岡さんに誰も入れるなって言っておいたのになー」 「馬鹿か! 仕事もしないで、何やってんだよ!」  —— うわーっ、桜川先輩なんかめちゃ怒ってる……。 「あ、あの、これはちょっとふざけてただけで……、」  俺が焦りながらも取り繕おうとしているのに、みっきーときたら、何食わぬ顔をして、 「今からセックスしよーと思ったのにー」とか、言っているし……。 「兎に角っ! 仕事しろよ、兄貴」  桜川先輩は、眼鏡を中指で上に上げて、冷めた切れ長の目で俺を睨みながら、言い放った。 「わーった、わーった」  桜川先輩の迫力に押されて、諦めたのか、やっとみっきーが俺を解放してくれた。   —— よ、よかった……、本当にふざけてただけだとは思うけど…… 助かった……。 「あー、でも先に直を送ってくるわ」  な? って、俺に同意を求めるみっきー。 透さんのマンションまで送るって言ってくれてるんだ。 「あ、いや、いいよ。 一人で行くから」 「ちゃんと行けるの?」  なんかすごい心配してくれてるみたいだけど、子供じゃないんだから、ちゃんと行けるってば。 「ありがとう。 でもちゃんと自分の足で行きたいんだよ」  俺がそう応えると、ミッキーは、「そうか」と言って、ニッと、口角を上げて微笑んだ。  ***  みっきーの店を出ると、外の冷たい風が、少し火照った頬に気持ち良く掠めていく。  これから透さんに会いにいくんだ。 そう思っただけで、なんだか嬉しい。  透さんに会えたら、ちゃんと自分の気持ちを伝えたい。  どうなるかは分からないのに、なぜか気持ちはスッキリしてる。  透さんのマンションまでは、電車で数十分。 俺は背筋を伸ばして足を踏み出し、駅へと向かう。    数メートル歩いた所で、後ろから知った声に「おい、」と、呼び止められて振り向くと、俺を追いかけて店から出てきた桜川先輩が立っていた。

ともだちにシェアしよう!