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—— 想う心と○○な味の……(11)
「…… 透さんとうまくいっちゃったらさ、もう俺とはエッチ出来ないでしょ?」
「…… ! し、しないよっ、好きな人としかしないって、言って……」
「だから、最後に一回だけしよっか、さっきの続き」
俺が最後まで言い終わらないうちに、みっきーがとんでもない発言を被せてきた。
「いっ…… 一回だけって…… 駄目だって!」
もーっ、何考えてるんだ、この人は!
つか、もうすでに みっきーの手は俺の服の下を弄っているし!
「んーー、ケチだなぁー、」
「…… んな事にケチも太っ腹も、関係ないしっ」
「ぷぷっ、何それ。 じゃあ、キスは? キスくらいいいでしょ?」
背後から顎を捕らえて俺の顔を振り向かせると、唇を近づけてくる。
「そんなの、いいわけ!…… や、やめっ、…… んっ」
何とか避けようと、みっきーの膝の上でバタバタと暴れても、敢え無くみっきーの唇に塞がれてしまった。
逃げてもまた追いかけられて、また啄ばまれる。
「ちょっ、まじ、もっ、しつこいっ!」
クスクスと笑いながら、何度もキスを仕掛けてくるみっきーは、完全に俺を遊んでいる。
「ほら、ちゃんと逃げないと、舌入れちゃうよ?」
首を振って逃げると、「キスに気を取られ過ぎ」と、言いながら、服の下に入れた手に肌を撫でられる。
「…… ふ、ぁっ……、」
胸の尖りに辿り着いた指に摘まれて、出したくない声を漏らしてしまう。
「あはは、感じやすいんだよね、直は」
「うるさいっ! も、やめ…てってば!」
みっきーの膝の上から逃れようと、前かがみになったところを、項に顔を埋められて、ねっとりと舐め上げられたその時、
「何やってんだよ!」
大きな音を立ててドアが開けられた瞬間、怒鳴りながら部屋に入って来たのは……
「…… 桜川、せんぱい……」
またもや、こんな場面を見られてしまって、背中に冷たい汗が流れた。
「なんだ勇樹、お兄ちゃんの邪魔すんなよ。 森岡さんに誰も入れるなって言っておいたのになー」
「馬鹿か! 仕事もしないで、何やってんだよ!」
—— うわーっ、桜川先輩なんかめちゃ怒ってる……。
「あ、あの、これはちょっとふざけてただけで……、」
俺が焦りながらも取り繕おうとしているのに、みっきーときたら、何食わぬ顔をして、
「今からセックスしよーと思ったのにー」とか、言っているし……。
「兎に角っ! 仕事しろよ、兄貴」
桜川先輩は、眼鏡を中指で上に上げて、冷めた切れ長の目で俺を睨みながら、言い放った。
「わーった、わーった」
桜川先輩の迫力に押されて、諦めたのか、やっとみっきーが俺を解放してくれた。
—— よ、よかった……、本当にふざけてただけだとは思うけど…… 助かった……。
「あー、でも先に直を送ってくるわ」
な? って、俺に同意を求めるみっきー。 透さんのマンションまで送るって言ってくれてるんだ。
「あ、いや、いいよ。 一人で行くから」
「ちゃんと行けるの?」
なんかすごい心配してくれてるみたいだけど、子供じゃないんだから、ちゃんと行けるってば。
「ありがとう。 でもちゃんと自分の足で行きたいんだよ」
俺がそう応えると、ミッキーは、「そうか」と言って、ニッと、口角を上げて微笑んだ。
***
みっきーの店を出ると、外の冷たい風が、少し火照った頬に気持ち良く掠めていく。
これから透さんに会いにいくんだ。 そう思っただけで、なんだか嬉しい。
透さんに会えたら、ちゃんと自分の気持ちを伝えたい。
どうなるかは分からないのに、なぜか気持ちはスッキリしてる。
透さんのマンションまでは、電車で数十分。 俺は背筋を伸ばして足を踏み出し、駅へと向かう。
数メートル歩いた所で、後ろから知った声に「おい、」と、呼び止められて振り向くと、俺を追いかけて店から出てきた桜川先輩が立っていた。
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