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—— 想う心と○○な味の……(16)
東側の角部屋を目指して全速力で走って行って、ドアの前で何度も深呼吸。
インターホンを押そうと、伸ばした指が震えている。
—— マジで俺、乙女過ぎるっ。
それでも、ドキドキする心臓を、どうする事もできないんだから仕方ない。
止めるわけにいかないし!
意を決して、インターホンのボタンを押す。
—— ピーンポーン……って、音だけが聞こえてきて、部屋の中からは物音一つしない。
—— 部屋の灯り消えていたもんな。
もう一度押してみる。……が、結果は同じ事。
—— うん、これは想定内。
終電まで待つと決めたんだ。 それまでは待つ。 もしも、今夜会えなくても、また来ればいい。
玄関前が、少し奥まった余裕のあるスペースで、角部屋と言うこともあって人目も避けれる。
廊下の手摺壁も、途中までがコンクリートで上部分がガラスで出来ていて、しゃがんでいれば、ある程度の風は避ける事ができる。
それでも、もうすぐ2月というこの時期で、しかも夜ともなれば、気温も低い。 いくら手摺壁があると言っても、ここは12階。 時折、強い風が手摺壁を越えて吹き込んでくる。
「耳が千切れそう……」
首にグルグルに巻いたマフラーで耳を隠して、冷え切った指先を口元に持っていき、息を吹きかけても、あまり効果はなかった。
「手袋が欲しいな……」
ハーフ丈のコートのポケットに手を突っ込んでも、少しも温まりはしない。
時間が経つにつれ、さっきまで浮かれていた気持ちに、段々と不安の色が混ざってくる。
—— 彼女と一緒に帰ってきたらどうしよう。
もう俺の事なんか忘れてるかもしれないのに、ここで待ってて迷惑じゃないだろうか。
もしかしたら、忘れられている以前に、嫌われてしまっているかもしれないのに……。
透さんに自分の気持ちを伝える以前に、冷たい目で見られてしまったら……。
いや、俺の事を見てくれるなら、たとえ冷たくても怒っていてもいい。
それより不安なのは……、
俺のことなんて、目にも留めてくれずに、無視されたらどうしよう……。
考え出したらもう、歯止めが効かずに、どんどん気持ちが落ちていってしまう。
それは、冷たい冬の風に体温を奪われていくのとリンクしていた。
***
「遅いなぁ、透さん……」
携帯で時間を確認すると、終電まであと30分。
固まってしまった膝を伸ばして、壁に寄りかかりながら立ち上がる。
—— 今夜は、諦めるか……。
もしかしたら、彼女とどっかに行った…… とか、余計な事を考える頭をブンブンと振る。
—— また来ればいい。
一生会えないわけじゃない、会おうと思えば会えるんだから。 そう自分に言い聞かせるしかなかった。
**
駅までの道のりは、行きと帰りでは随分足取りが違うのが、自分でも分かって苦笑する。
—— 俺ってホント単純……。 ただ留守だっただけなのに……。
勝手に行って、留守だからって勝手に落ち込んで、ホントに馬鹿だな。
重い足取りでも、なんとか終電に間に合って、乗り込んだ電車の窓から見える、街の灯り。
行きと同じ風景なのに、なんだか寂しい。
終電に乗っている人達も、心なしか疲れた顔をして、それぞれの駅で降りて行く。
透さんのマンションへ向かう時に降りたホームで感じた、心地よい冷たい空気は、今は心まで凍えそうな寂しい冷たさに感じた。
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