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 —— 想う心と○○な味の……(17)

 ***  自分のワンルームに帰ってきた頃には、もう午前1時を回っていて、時々通り過ぎる車のエンジン音がやけに大きく響いている気がした。  隣の部屋の物音ですら、普通に聞こえてしまう安普請のワンルームだから、なるべく音を立てないように、ひっそりとした階段を5階まで上っていく。  悴んだ指で部屋の鍵を開けていたら、後ろから能天気な声が聞こえてきた。 「こんな遅くまで、どこ行ってたんだよー」  振り向くと、啓太がダンボールを抱えて立っていた。 「……、どうしたんだよ、こんな夜中に」 「ああ、これ、お袋が送ってきたの。 直んとこにも持ってけって」  啓太が抱えるダンボールの中を覗くと、野菜やら蜜柑やら、色々入っている。  …… でも、俺一人で食べるには、ちょっと多すぎないか? 「ありがと。 でもこんないっぱい、食べきれないよ」  つか、あんまり自炊しないし…… と言うか、料理ができない。 「お前ねー、ちょっとは料理覚えろよ」  偉そうな態度で、そう言う啓太は、一人暮らしをはじめてから、料理本なんかを揃えて頑張っているようだった。 「あー、そうだな…… やってみようかな」  ドアを開けてから、啓太からダンボールを受け取る。   根菜類やみかんの重さが、凍えた手に堪えた。 「…… お前、なんか元気なくね?」  啓太は、こう言う時何故か鋭い。 「…… んな事ないよ、ちょっと疲れただけかな」 「なんか変だなー。 だって、こんな遅く帰ってきてんのに、酒呑んでるようでもないし」 「……」 「まぁいいや。 な、お袋がさ、これも送ってきたんだよ。 一緒に飲まないか?」  重そうな袋を持ってんなと思ったら、中に入っていたのは日本酒の四合瓶。 「ちょ、それ、未成年の息子に送ってくるか?!」 「わかんねー、料理に使えって事かもしれないけどな」 「……」 「常温で飲む?それとも熱燗?」  そう言いながら、もう既に部屋に上がりこんで、啓太が鍋を探してる。  徳利と、猪口まで持参していた。 「最初から飲むつもりだったのかよ」 「まぁなー、もう試験もレポートも全部終わっただろ? じゃ、いいじゃん」  つまみは、これでいいよな? と言いながら、さっきのダンボールの中からサキイカとか柿の種とか出してきてる。  —— 啓太のおかーさんて……。  未成年の息子に送る愛情の宅急便にしては、中身が渋すぎる気が……。  そんなことを考えていたら、少しだけ口元が緩んだ。  俺、日本酒は弱いんだけどな……。 ま、いっか、二人で四合瓶ならすぐになくなるだろう。  そう思いながら、小さなローテーブルに二人で向かい合わせで座って、用意してくれた熱燗をちびちびと舐めるように味わってみた。 「あーっ、やっぱり効くぅ~熱燗いいねー」  啓太が一口で飲み干して、大きく息を吐き出している。 「お前、強いの?日本酒」 「えー? そうでもないけど。 やっぱり寒い時は日本酒でしょ?」  そんなもんなのかなーと、俺はやっぱりチビチビと舐めるようにしか飲めない。  でも、ちょっと身体がぽかぽかしてきた。 「んで? なんかあったん? 女か?」  すでに酒に酔ってんのか、啓太が赤い顔をして小指を立てて訊いてくる。 「…… 女じゃねーよ、俺の好きなのは男なの!」  俺も慣れない日本酒を飲んで、酔いが回ったのか……。つい、考えもせずにそんな事を言ってしまっていた。 しかも、重大な事をカミングアウトしたって言うのに、全く自覚が無かった。

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