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—— 想う心と○○な味の……(30)
現実を認める事が出来なくて、これは何かの間違いだ、透さんが何も言わずにいなくなる訳がない。
頭の中はその事ばかり考えていて、自分が今、歩いているという意識もなく、今にも止まりそうなほど遅いのに、足は勝手に駅に向かっている。
—— 俺、いったい何処に行こうとしているんだろう。
透さんに会う為の術は、もう何もないのに。
ふと冷たい雫が、頬に落ちたのを感じて、重い足を止めた。
「…… 雪? …… みぞれか」
雨の混じった雪が降り始め、髪を濡らしていた。
誰もが足を速める中、止めてしまった足を動かすのも忘れて、まるで俺独り、ここに置いて行かれたような気持ちで、道行く人達を眺めていた。
透さんも、俺を置いて行ってしまった。 何も言わずに…、別れの言葉さえも。
でもそれが、透さんの気持ちなんだろう。
誰とでも簡単に身体の関係をもつような奴を、透さんが本気で好きになるわけがなかった。
もう二度と会いたくないと、透さんが思っていても仕方がない事だと思う。
でも……、やっと気付いたのに……。
駄目でも何でも、好きという気持ちだけは伝えたかった。 最後でもいいから。
その時、不意にポケットの中の携帯が振動して着信を知らせた。
『ハロ~~♪』
一瞬だけ、透さんかもと思って急いで出れば、聞こえてきたのは、みっきーの陽気な声だった。
「…… みっきー?」
『そーだよー、直、体調はもう良くなった?』
みっきーの声を聞くのは、俺がインフルエンザでダウンしてた時、一度だけ様子見に来てくれて以来だった。
「もう、治ったよ……」
『今日は、とーるさんと一緒かなー? バレンタインだもんねー』
「……」
みっきーの問いに、言葉は詰まってしまう。
『…… あれ? なーお? 聞こえてるー?』
「…… うん、聞こえてるよ」
『どうした? 元気なくない? 何かあった?』
「やだな、別に……、何も無いってば」
『…… 直? なんでも言ってくれないと、お兄さん寂しくって死んじゃう』
いつものみっきーの冗談口調が、硬く強張っていた気持ちを和ませてくれるようだった。
同時に胸に熱いものが込み上げて、目の前が涙で滲んでいく。
「ホント……、なんでもないから……」
『直、無理するな』
電話の向こうから真剣で、それでいて優しい声が聞こえてきた。
なるべく、悟られないように喋っているつもりでも、心の中の喪失感は隠すことは出来なかったらしくて、呆気なくみっきーに見破られていた。
「…… みっき、俺……、一緒にメキシコ行こうかな……」
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