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—— 想う心と○○な味の……(35)
「携帯に電話しても出ないし、嫌な予感して車を降りて探してたらこれ落ちててさ。 直のバイト先のロゴ入ってんじゃん。 そうしたらすぐ先に、真澄さんくらいしか乗らないような悪趣味な車がギシギシ揺れてんだもんね」
紙袋は濡れてしまって、泥で汚れているし、少し破れてしまってる。 中の箱も潰れて、多分中身も潰れてしまっているだろう。
もう透さんに渡す事は叶わないけど……。
「ありがとう、みっきー」
その紙袋を受け取りたくて、縛られた手を必死に動かして、ネクタイを解こうともがいている俺を見て、みっきーは少し大袈裟過ぎるくらいに、大きな声を出した。
「うっわー、縛られちゃってんの? ほんっと、この車といい、真澄さんって趣味悪っ!」
それから男の肩を掴んで車から引き摺り下ろし、代わりに後部座席に乗り込んで、俺の体を抱き起こす。
「大丈夫だった?」
そう言いながら、手首を縛っているネクタイを外し、クシャクシャになった紙袋を手渡してくれた。
「うん」
その紙袋を受け取ってそっと胸に抱きしめると、いろんな想いがこみ上げてくる。
「本当にありがとう」
そう言って、視線を上げれば、みっきーは心配そうに俺をじっと見つめていて、ふっ、と、何かに気付いたように、左の頬骨の辺りに顔を近づけてきた。
「直、殴られたのか? 顔が赤くなってる」
「うん……、でも大丈夫だよ」
「…… まったくっ!」
みっきーは、ちょっと怒った顔で、俺に自分のコートを羽織らせて、濡れている俺のコートを手にすると、外で呆然と立ち尽くしている男に向き直った。
「な、なんだよ? 言っとくけど、これは合意だからな! その子が自分から俺の車に乗ったんだ」
慌てた男は、苦し紛れに適当な事を言い出した。
—— んな訳ねーだろっ!
と、車を降りてひとこと言ってやろうとする俺を、みっきーが腕を伸ばして制した。
「真澄さん、合意なのに縛っちゃって、殴っちゃうの?」そう言って、みっきーは男の胸ぐらを掴む。
「な、殴ってなんか…、あれは偶然に当たっただけ…… っ」
「そんな言い訳、俺には通用しないんだよ!」
言うなり男の服を掴んだ手で、そのまま思い切り突き飛ばした。
後ろ向きに突き飛ばされた男は、足が縺れて濡れたアスファルトに尻もちをつく。
「ーー なっ……」
「アンタ、うちの店にはもう、出入り禁止な」
何か言いかけた男の言葉を遮って、みっきーは振り返り、「行くぞ」と言って、俺の肩を抱き寄せて持っていた傘を開いた。
アスファルトに座り込んだままの男を残し、歩き出したみっきーは、車を停めてある場所に向かう間、ずっと無言だった。
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