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 ―― 君の初めては全部……(12)

 勢いよく振り返れば、いつの間に帰ってきたのか、俺のすぐ後ろで透さんがパソコンの画面を覗き込もうとしている。 「と、透さんっ? あれ? 早かったねー?」  画面を背中で隠して、椅子から腰を浮かして、透さんの顔の前でニッコリ笑ってみたけど、既に遅かった。 「ふーん、直くん、こういうのに興味あるんだね」  ―― って! いや、俺が興味あるっていう訳じゃないんだけど! 「ち、違っ、これは……、その……、透さんが昨日、これからはいっぱい初めての経験しようねって、言ってたから……。 そ、そう! だから、ど、どんなのがあるのかなって…… 思って、ちょっと覗いてみただけで……」 「…… 直くん…… 、」  透さん、今、何か言いかけて、なんでか笑いを堪え切れないって様子で、口元に拳を当てて、プッて、吹き出してるんだけど!  え? え? 俺、そんなに可笑しいこと言った? 「そうだね。 俺もそういうの、ちょっとしてみたい気もするけど……」  そう言って、透さんは俺の耳元に唇を寄せて、鼓膜に響くような、あの甘い声で続きを囁いた。 「昨夜の直くん、壮絶にエロ可愛かったしね」 「……っ、 透さん……」 「でも……、これからは直くんの初めては全部俺も一緒に経験できるって言ったのは、別にこういう事をしたいってだけじゃなかったんだけど……」  そこまで言って、透さんはまた可笑しそうにクスクスと笑い出した。 「え? ち、違うの……?」 「例えば、何か……、お互いやった事のない事を一緒に経験したり……」  え? それってSMプレイとかじゃなくって? 「直くん……、今、エッチなこと想像したでしょ」  そう言って笑いながら、透さんは俺の鼻を指でキュッと摘んだ。 「ん~~~、ひぃがうの?」 「例えが悪かったね。 うーん、ほら、二人して、行ったことのない場所に旅行に行ったり、食べたことのない食べ物を食べたり……」  ―― えええええっ!!!  ちょっと待って、俺、めっちゃ恥ずかしすぎる!!  ボンッて、音が鳴りそうなくらい顔が熱くなって、耳まで真っ赤になってるって、自分でも分かるっ。 「でも、直くんが、こういうの嫌じゃないんなら、どれかひとつ試してみるのもいいかもね」  恥ずかしくって俯いていたら、透さんがパソコンの画面を見ながら、「これなんかどう? 可愛いし」って、ふわっふわのピンクのファーが付いたカフスとアイマスクのセットを、指さした。 「透さんーーっ」  思わず透さんの背中に顔を埋めた。 恥ずかしくって!  ちょっと今、それを身に付けてる自分を想像してしまったじゃん~。 「直くん、もしかして通販ページ一人で見てて、興奮しちゃったの?」 「え? えーと」 「さっきから気になってたんだけど、勃ってるよね」    そう言うと、くるっと振り返ってギュッと俺を抱き寄せる。 「い、いやっ、これはっ」  通販ページで興奮したんじゃなくって、さっき正月に女装した時に、夜景を見に行ったことを思い出して…… だったんだけど…… って、そんな事も言える訳なくって!  でも、そんなこと、優しく抱き締められて、甘く唇を重ねられたら、どっかに飛んでいっちまう。  今、こうして透さんがくれるひとつひとつが、全部愛しくて、全部が初めて感じる幸せだなって思う。  これからも、小さな幸せを沢山増やしていけると思う。  ―― 透さんと二人なら。    君の初めては全部…… end / + to be continued → →

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