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―― Moonlight scandal(7)
*****
楽しい時間なんてあっという間に過ぎていく。 透さんに送ってもらって、車が俺のワンルームマンションの前で停まる。
透さんは、これから仕事に行くから、俺はもう車を降りないといけなくて……。
楽しみにしていた透さんとの週末は、今週はこれでおしまいだと思うと、やっぱりちょっと寂しい。
納得しているつもりなのに、何故だか胸の奥深いところで、小さな痛みを感じていた。
「直くん」
俺の頭に手を伸ばして、優しく撫でてくれながら、
「今日は本当にごめんね」
って、透さんは今日何度目かの『ごめんね』を、言ってくれる。
「仕事だもん、仕方ないよ。 それより来週楽しみにしてるからね」
寂しいけど、俺だって子供じゃないんだから、なるべく平気なフリをして笑ってみせた。
透さんは、そんな俺の顔を覗きこむ。
「無理しないで、怒ってくれていいんだよ?」
「おっ、怒ってなんかないから! 俺、そんなに子供じゃないし!」
俺の胸の奥の小さな痛みなんて、そんなの表に出して怒ったりするようなもんじゃないし、
仕事なんだから仕方ないことだって、分かってるから抑えてるつもりなのに、
透さんには、呆気なく見透かされていることに、なんだか恥ずかしくなって、慌てて否定した。
「いい子だね」
透さんはそう言うと、慌てて、あたふたしている俺の唇に、素早くチュッとキスをする。
「と、透さん…… !」
こんな場所で、誰かに見られてしまったら! って思って、周りをキョロキョロと確認する俺に、
「大丈夫だよ、ちゃんと誰もいない事を確認したから」
って、透さんは、笑いながらまた俺の頭を撫でる。
「…っ、子供じゃないって、言ってるのに……」
ちょっと拗ねたように言うと、「子供にキスはしないよ」って、涼しい顔してる。
顔が熱いのは俺だけで、透さんはいつだって落ち着いていて。
急な仕事が入って、俺に悪いって謝ってくれるけど……、分かってるけど、仕事で二人でいる時間が短くなるのが嫌だなんて、思ってるのは自分だけなんだって、考えちゃって、なんだか悲しくなる自分はやっぱり子供なのかな。
***
エアコンの効いた車内から降りると、途端にムンッと音が出そうな温度に身体が溶けそうな気分になる。
「また連絡するね」
透さんが、俺に話しかける為に、ウィンドウを開けると車の中の冷気が、少しだけ流れてきた。
「うん、待ってるね」
応える俺に透さんは微笑むと軽く手を振って、ゆっくりと車が滑り出していく。
俺は、車が小さくなっていくのを、夏の暑い日ざしの下で見送っていた。
—— 午後から暇になっちゃったなぁ…。
「…… あっつぅ……」
じりじりと太陽が、さっきまで涼しい車の中で甘やかしていた肌を容赦なく照りつける。
こめかみから、汗がたらりと一筋流れた。
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