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―― Moonlight scandal(8)
溜息ひとつ零して、マンションのエントランスに向かおうとしたところで、後ろから知った声に呼び止められた。
「直じゃん、何してんの?」
振り向くと、啓太がこれまた暑さにやられた顔をして、コンビニの袋をぶらさげて此方に走ってくる。
「…… おまっ、走るなよ、こっちまで暑くなるっ!」
「マジで、あっちぃな」
俺の傍に駆け寄って来て、汗に濡れたTシャツの裾をパタパタさせている。
啓太が隣に来ただけで、絶対今2度くらい気温上がったと思う。
「んで? 暑いのに、こんなとこで、何一人で、物思いにふけってんの?」
「…… 別に、なんでもないって!」
啓太って、こういう時やっぱり鋭い…… って思う。
「日曜のこんな時間に、帰ってるなんて珍しいじゃん。透さんとデートじゃなかったのか?」
「…… う、」
—— ほら、やっぱり鋭い……。
俺が口ごもってると、コンビニの袋を俺の頬にあてがった。
「―― 冷たっ!」
不意にだったから驚いたけど、暑くて火照った顔に当てられたのは、冷たいけど気持ちいいもの。
「ま、取り敢えず、早く部屋に入ろうぜ、直もアイス食うだろ?」
啓太の持ってたコンビニの袋の中身は、いろんな種類のアイスが、これでもかって位、いっぱい入っていた。
***
「…… いったい何個買ってきてんの。 アイス屋でも始めるわけ?」
「んー、だって暑いんだもん」
小さな冷凍室に、買ってきたアイスをギュウギュウに詰め込む啓太の横で、俺はソーダ味のアイスバーの袋を開ける。
「ちょっ、おまっ、何勝手に開けてんの! あー、ソーダ味のはそれ1本だけなのにー!」
啓太が言った時には、もうすでにソーダ味のアイスバーは、俺の口の中でレロレロと舐められていた。
「ほへん」
『ごめん』って謝ってんのに、 啓太は、「おまえ、マジありえねぇ。 咥えたまんま、喋んじゃねぇよ!」って、ぶつぶつとまだ怒ってる。
俺より子供なやつ、ここにいるじゃん。
アイスを食べ終わる頃には、啓太の部屋のエアコンも効いてきて、汗もすっかりひいていた。
「—— そういえばさ、啓太って今日はデートじゃなかったの?」
啓太は、あれからもずっと、ゆり先輩の事が好きで、時々デートをしているみたいだった。
「今日は、俺の番じゃないからさ」
ゆり先輩は相変わらず啓太オンリーじゃないみたいだけど。
「啓太は、それで満足してるの?」
好きな人が、他の奴とも付き合ってるなんて、俺だったら……。
もしも透さんが、俺以外の誰かと付き合ってるとしたら…、絶対堪えられない。
『―― それでも好きだから』
啓太は、前にそう言ったけど……。
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