184 / 351

 ―― Moonlight scandal(8)

 溜息ひとつ零して、マンションのエントランスに向かおうとしたところで、後ろから知った声に呼び止められた。 「直じゃん、何してんの?」  振り向くと、啓太がこれまた暑さにやられた顔をして、コンビニの袋をぶらさげて此方に走ってくる。 「…… おまっ、走るなよ、こっちまで暑くなるっ!」 「マジで、あっちぃな」  俺の傍に駆け寄って来て、汗に濡れたTシャツの裾をパタパタさせている。  啓太が隣に来ただけで、絶対今2度くらい気温上がったと思う。 「んで? 暑いのに、こんなとこで、何一人で、物思いにふけってんの?」 「…… 別に、なんでもないって!」  啓太って、こういう時やっぱり鋭い…… って思う。 「日曜のこんな時間に、帰ってるなんて珍しいじゃん。透さんとデートじゃなかったのか?」 「…… う、」  —— ほら、やっぱり鋭い……。  俺が口ごもってると、コンビニの袋を俺の頬にあてがった。 「―― 冷たっ!」  不意にだったから驚いたけど、暑くて火照った顔に当てられたのは、冷たいけど気持ちいいもの。 「ま、取り敢えず、早く部屋に入ろうぜ、直もアイス食うだろ?」  啓太の持ってたコンビニの袋の中身は、いろんな種類のアイスが、これでもかって位、いっぱい入っていた。  *** 「…… いったい何個買ってきてんの。 アイス屋でも始めるわけ?」 「んー、だって暑いんだもん」  小さな冷凍室に、買ってきたアイスをギュウギュウに詰め込む啓太の横で、俺はソーダ味のアイスバーの袋を開ける。 「ちょっ、おまっ、何勝手に開けてんの! あー、ソーダ味のはそれ1本だけなのにー!」  啓太が言った時には、もうすでにソーダ味のアイスバーは、俺の口の中でレロレロと舐められていた。 「ほへん」 『ごめん』って謝ってんのに、 啓太は、「おまえ、マジありえねぇ。 咥えたまんま、喋んじゃねぇよ!」って、ぶつぶつとまだ怒ってる。  俺より子供なやつ、ここにいるじゃん。  アイスを食べ終わる頃には、啓太の部屋のエアコンも効いてきて、汗もすっかりひいていた。 「—— そういえばさ、啓太って今日はデートじゃなかったの?」  啓太は、あれからもずっと、ゆり先輩の事が好きで、時々デートをしているみたいだった。 「今日は、俺の番じゃないからさ」  ゆり先輩は相変わらず啓太オンリーじゃないみたいだけど。 「啓太は、それで満足してるの?」  好きな人が、他の奴とも付き合ってるなんて、俺だったら……。  もしも透さんが、俺以外の誰かと付き合ってるとしたら…、絶対堪えられない。 『―― それでも好きだから』  啓太は、前にそう言ったけど……。

ともだちにシェアしよう!